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83:完全無欠な兄の話(7)
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兄に嫌われている誤解は解けたものの、いまだ兄弟の間には溝がある。
これまで散々兄に傷つけられてきたのに、実は好きでしたと言われても、完全に信じることは難しいようだ。
表面上、彼らは会話するようになったが、仲良しかと訊かれたら首を振らざるを得ない。
菜乃花の歓迎会のときは共同でケーキを作ってくれたらしいが、あれは間に入った大河がうまく潤滑油の役割を果たしてくれたからだろう。
兄弟で二人きりになった途端、話題に困り、必要最低限の会話しかしなくなる様子が容易に思い浮かぶ。
それは二人の問題であって、菜乃花が介入する余地などないのだが、どうにももどかしい。
菜乃花は天坂家に行ったことなどないし、偉そうにどうこう言える義理でもないが、それでも許されるなら天坂家当主に文句を言いたい。
兄弟の仲を引き裂いたこと、総司に1位を強いること、千影を離れに押し込んで無視すること。
当主に抗議したいことは山ほどある。
「千影様。ここだけの話にしておいてほしいのですが、本家の方々がある日突然、千影様への興味を失ったのは総司様のせいなのです」
「…………?」
要は訝るような千影の視線を受け止め、見返した。
「教育係の望む結果を出せず、苦しんでおられる千影様を見かねて、総司様が当主様に取引されたのですよ。自分が千影様の分まで頑張る、天坂の名に恥じぬようどの分野でも1位になる、常に最高の結果を出してみせる。だからもう千影様に干渉するな、放っておいてほしい、と」
「…………」
千影は目を丸くして、隣で眠る総司を見た。
無論、総司は反応しない。
針に刺された眠り姫のように、深く深く眠っている。
胸が緩やかに上下していなければ死んでいるのではないかと勘違いしてしまいそうだ。
「この際なので言っておきますと、ロディーを飼ったのも総司様の提案です」
ロディーとは、千影の実家で飼っている大型犬の名前。
千影はロディーが大好きで、無料通話アプリのアイコンもスマホの待ち受けもロディーだ。
「天坂の人間は氷のように冷たいけれど、犬には人間の事情など関係ない。きっと千影様を全力で愛してくれる、千影様の慰めになるだろうと。総司様は本当に千影様のことが大好きなんですよ」
千影はただ黙って総司を見つめている。
そして、長いこと何も言わなかった。
これまで散々兄に傷つけられてきたのに、実は好きでしたと言われても、完全に信じることは難しいようだ。
表面上、彼らは会話するようになったが、仲良しかと訊かれたら首を振らざるを得ない。
菜乃花の歓迎会のときは共同でケーキを作ってくれたらしいが、あれは間に入った大河がうまく潤滑油の役割を果たしてくれたからだろう。
兄弟で二人きりになった途端、話題に困り、必要最低限の会話しかしなくなる様子が容易に思い浮かぶ。
それは二人の問題であって、菜乃花が介入する余地などないのだが、どうにももどかしい。
菜乃花は天坂家に行ったことなどないし、偉そうにどうこう言える義理でもないが、それでも許されるなら天坂家当主に文句を言いたい。
兄弟の仲を引き裂いたこと、総司に1位を強いること、千影を離れに押し込んで無視すること。
当主に抗議したいことは山ほどある。
「千影様。ここだけの話にしておいてほしいのですが、本家の方々がある日突然、千影様への興味を失ったのは総司様のせいなのです」
「…………?」
要は訝るような千影の視線を受け止め、見返した。
「教育係の望む結果を出せず、苦しんでおられる千影様を見かねて、総司様が当主様に取引されたのですよ。自分が千影様の分まで頑張る、天坂の名に恥じぬようどの分野でも1位になる、常に最高の結果を出してみせる。だからもう千影様に干渉するな、放っておいてほしい、と」
「…………」
千影は目を丸くして、隣で眠る総司を見た。
無論、総司は反応しない。
針に刺された眠り姫のように、深く深く眠っている。
胸が緩やかに上下していなければ死んでいるのではないかと勘違いしてしまいそうだ。
「この際なので言っておきますと、ロディーを飼ったのも総司様の提案です」
ロディーとは、千影の実家で飼っている大型犬の名前。
千影はロディーが大好きで、無料通話アプリのアイコンもスマホの待ち受けもロディーだ。
「天坂の人間は氷のように冷たいけれど、犬には人間の事情など関係ない。きっと千影様を全力で愛してくれる、千影様の慰めになるだろうと。総司様は本当に千影様のことが大好きなんですよ」
千影はただ黙って総司を見つめている。
そして、長いこと何も言わなかった。
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