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82:完全無欠な兄の話(6)
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「まあ、普通の人間に比べればよっぽど出来る奴だと思うけどな。記憶力もいいし、頭の回転も早い。でも何の努力もせずにどの分野でも1位を取れるほどじゃねーよ」
大河は首の後ろに手を回し、頭を掻いた。
「マラソンの時だって一週間前からずっと走ってたし、合唱コンクールのピアノ伴奏者に選ばれたときは朝から晩までひたすらピアノを弾いてたよ。みんな結果だけ見て総司を讃えるけど、影の努力を知ってるオレはそりゃそうだろとしか思わねーよ。テストが終わった途端にぶっ倒れる奴なんて、この学園のどこ探してもいねーだろ。てか、そんな異常な奴、いてたまるか」
大河は不機嫌そうに吐き捨てたが、そんな異常な人間が彼の横にいるのだ。
寮生と交流する暇すら惜しんで一週間も部屋にこもり、テストが終わった途端に疲労困憊して倒れてしまう人が。
それも、テストの度に毎回――もはや狂気の沙汰だ。
「…………」
千影は黙っている。
大河も鼻を鳴らしたきり、何も言わない。
なんともいえない重い空気が流れる。
「……俺、赤点取りそうで」
静寂の中、千影がぽつりと言葉を零した。
「もし赤点でも園田さんを追い出したりしないでほしいって兄貴に頼みに来たんだけど。兄貴は毎回倒れるまで勉強頑張ってたんだって知ったら、……どうしよう。凄く言いにくい……」
自らの低い学力を恥じるように、千影は顔を伏せた。
「あー、なるほど。赤点取りそうだわヤベー、おにーちゃんお願い、もし赤点でも菜乃花ちゃんを追い出さないで♡ って言いに来たんだな?」
千影たちがここに来た事情を悟り、大河がぽんと手を打った。
「その通りだけど、おにーちゃんと言うつもりは……」
千影は渋面になった。
「ははは。でも、その必要はないぜ。だって総司、もし赤点でも構わないって言ってたもん」
「「え?」」
菜乃花と千影の声は見事に揃った。
確認のため、総司の側近に目を向けると、要は頷いた。
「はい。千影様に奮起していただくため、赤点を取ったら園田様を追い出すと総司様は仰いましたが、あれは嘘です。特にペナルティーを科すつもりはありませんよ」
「……そう……なのか?」
「はい」
要の肯定を受けて、千影は眉間に皺を寄せ、右手でこめかみを押さえた。
「……じゃあ俺はなんのためにここに来たんだ。本気で悩んで、兄貴と対決しようって意気込んでたのが馬鹿みたいじゃないか」
「総司様は我儘な暴君ですが、本気で千影様を悲しませるようなことはしませんよ。いつだって千影様の幸せを願っておられます」
要は噓偽りのない、真摯な眼差しで千影を見つめた。
「……そうなのかな」
表情からして千影は半信半疑のようだ。
大河は首の後ろに手を回し、頭を掻いた。
「マラソンの時だって一週間前からずっと走ってたし、合唱コンクールのピアノ伴奏者に選ばれたときは朝から晩までひたすらピアノを弾いてたよ。みんな結果だけ見て総司を讃えるけど、影の努力を知ってるオレはそりゃそうだろとしか思わねーよ。テストが終わった途端にぶっ倒れる奴なんて、この学園のどこ探してもいねーだろ。てか、そんな異常な奴、いてたまるか」
大河は不機嫌そうに吐き捨てたが、そんな異常な人間が彼の横にいるのだ。
寮生と交流する暇すら惜しんで一週間も部屋にこもり、テストが終わった途端に疲労困憊して倒れてしまう人が。
それも、テストの度に毎回――もはや狂気の沙汰だ。
「…………」
千影は黙っている。
大河も鼻を鳴らしたきり、何も言わない。
なんともいえない重い空気が流れる。
「……俺、赤点取りそうで」
静寂の中、千影がぽつりと言葉を零した。
「もし赤点でも園田さんを追い出したりしないでほしいって兄貴に頼みに来たんだけど。兄貴は毎回倒れるまで勉強頑張ってたんだって知ったら、……どうしよう。凄く言いにくい……」
自らの低い学力を恥じるように、千影は顔を伏せた。
「あー、なるほど。赤点取りそうだわヤベー、おにーちゃんお願い、もし赤点でも菜乃花ちゃんを追い出さないで♡ って言いに来たんだな?」
千影たちがここに来た事情を悟り、大河がぽんと手を打った。
「その通りだけど、おにーちゃんと言うつもりは……」
千影は渋面になった。
「ははは。でも、その必要はないぜ。だって総司、もし赤点でも構わないって言ってたもん」
「「え?」」
菜乃花と千影の声は見事に揃った。
確認のため、総司の側近に目を向けると、要は頷いた。
「はい。千影様に奮起していただくため、赤点を取ったら園田様を追い出すと総司様は仰いましたが、あれは嘘です。特にペナルティーを科すつもりはありませんよ」
「……そう……なのか?」
「はい」
要の肯定を受けて、千影は眉間に皺を寄せ、右手でこめかみを押さえた。
「……じゃあ俺はなんのためにここに来たんだ。本気で悩んで、兄貴と対決しようって意気込んでたのが馬鹿みたいじゃないか」
「総司様は我儘な暴君ですが、本気で千影様を悲しませるようなことはしませんよ。いつだって千影様の幸せを願っておられます」
要は噓偽りのない、真摯な眼差しで千影を見つめた。
「……そうなのかな」
表情からして千影は半信半疑のようだ。
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