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29:全ては三次元美少女のせいでした(2)

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「……琴原《ことはら》さん」
 知り合いらしく、千影が名前を呼んだ。
 同性の嫉妬を大いに買いそうな容姿の美少女は琴原と言うらしい。

「話すのは一年ぶりかな。本当に久しぶりだよね、元気そうで何よりだよ。いきなりすみません。私、B組の琴原音羽おとはっていいます。天坂くんとは中等部二年のときにクラスが一緒でした」
 音羽は台詞の途中で菜乃花に顔を向け、会釈した。

「A組の園田菜乃花です。どうぞ、座りません?」
「いえ、そんなに長く話すつもりはないので」
 菜乃花が隣の椅子を引くと、音羽は首を振って微笑んだ。

「園田さんって、学年トップの才女ですよね。内部生の間では有名ですよ、ぽっと出の外部生が学年トップを取ったって」
「有名なんですか、私」
「もちろんです。五桜では家柄や財力に匹敵するくらい学力が重要視されます。一年であなたを知らない生徒はいませんよ」
 音羽はにこにこしているが、笑い返すことはできなかった。

(まさか、内部生の反感を買ったりしてないよね? だから友達ができないとか……そんなことありませんように)
 菜乃花が学年トップだと判明したとき、クラスメイトたちは凄いと褒めてくれたが、その裏で生意気だと陰口を叩かれていたら悲し過ぎる。

「琴原さん。何の用事?」
 菜乃花の顔が曇ったのを見てか、千影が促した。
 寡黙でおとなしい千影が、他人《おとは》の機嫌を損ねるリスクを取ってまで強引に話を進めようとするとは思わず、菜乃花は少々驚いた。

「用事って言うほどの用事があるわけじゃないの」
 音羽は指で頰を掻いた。
 綺麗な爪には薄いピンクのマニキュアが塗られている。
 よく見ると、彼女は唇にもリップを塗っているようだった。

「この前も園田さんと二人で昼食を食べてたでしょう。仲が良さそうだし、付き合ってるのかなって思っただけ」
「!」
「違う。俺と園田さんは友達だ」
 菜乃花がドキっとする暇も与えず、千影は断言した。
「俺の彼女は風待《かぜまち》るるか以外にいない」

(千影くんの彼女は風待るるかっていうキャラなのか。後で検索してみよう)
 胸中でメモを取る。

「そうなんだ……二次元の彼女がいるからって、女子の告白を断ったっていう話は本当だったみたいだね……」
 音羽は頬を引き攣らせ、何か言いたそうな顔で菜乃花を見た。

 学年トップがこんな二次元オタクと付き合ってていいの? とでも言いたいのか。
 仲が良いならこのオタクの目を覚まさせてあげて、とでも言いたいのか。

 音羽が何を言いたいのかはわからないが、菜乃花は曖昧な微笑を浮かべてスルーを決め込んだ。
 千影とどんな関係を築こうが菜乃花の勝手だし、第三者に口出しされる筋合いはない。
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