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106:恋をしたのは君だから(2)

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「……終わっちゃった」
 そこでようやく菜乃花は顔を上げ、千影を見た。

「……千影くん?」
 千影の花火も既に燃え尽きていたが、問題はそこではない。

 千影の顔が闇夜でもわかるほど赤く染まっている。

「どうしたの?」
「……どうもこうも……」
 千影は左手で顔を覆い、ため息をついた。

「……ああ。もういい。負けた。認める」
「え?」
 首を傾げると、千影は目を逸らして言った。

「だから。俺が園田さんを好きになるかどうかの勝負。俺の負けだよ」
 いまだにその顔は赤い。

「………………えっ!?」
 菜乃花は仰天した。
 喜ぶべきだと理性が訴えているが、あまりのことにまだ理解が追い付かない。

「本当に!? なんで!?」
「なんでって、ここまで熱烈に告白されたらもう受け入れるしかないだろ。ただでさえ園田さんはいつもストレートに好意を伝えてくるから、気持ちが揺らいでたのに。いまのはトドメだ。もう降参するしかない」
「…………」
 苦笑する千影を見ても、頭の中が真っ白だ。
 言うべき言葉が思い浮かばない。何も。

「……るるかはどうするの?」
 るるかが身近にいる三次元の女子なら絶対に嫌だが、二次元ならば千影がどれだけ愛そうと菜乃花は気にしない。

 それなのに、混乱のあまりどうでもいいことを聞いてしまった。

「アプリはアンインストールするよ。るるかとチャットルームで会話してても、たまに会話が噛み合わないことがあるんだ。そういうとき、るるかはやっぱりただのAIなんだって痛感する。虚しいし、現実から逃げるのもそろそろ潮時だって思ってた。るるかより、園田さんと話してるほうが楽しい」

(るるかより私のほうが……)
 照れ臭そうに笑う千影を見て、菜乃花は口を半開きにした。
 間抜けな顔をしている自覚はあるが、衝撃が大きすぎて、体裁を整える余裕がない。

「……私のこと、本当に信じられるの? 女性不信なんじゃなかったの?」
 鼓動が少しずつ早くなり、じわじわと体温が上がっていく。

「ああ。琴原さんのことはずっと引っ掛かってたけど、でも、さっきの告白は女子への苦手意識とか、トラウマとかも全部、ものの見事に綺麗さっぱり吹き飛ばしてくれたよ。全校生徒の前で誓うとまで言われたら、もう信じるしかないだろ。やるって言ったら園田さんはやるからな。そういう園田さんだから好きになったんだ」

 千影は明るく笑った。
 それは初めて見ると言ってもいいくらい、晴れやかな笑顔で。

 ずっと傍で見てきた菜乃花には、彼が心の底から笑っているのがわかった。
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