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91:姉のような私の親友(1)

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 午前中授業だった月曜日の夜。

 杏が仕事を終えてフリーになったタイミングを見計らい、菜乃花は今日も今日とて彼女を部屋に招いた。

「それでは報告をお願いします」
 ベッドの上で正座して背筋を伸ばし、傾聴の姿勢を取る。

「覚悟はできたのね?」
「はい」
 重々しく頷く。

「ならばできる限り詳しく、私が見たありのままを伝えましょう」
 メイド服を着た杏は菜乃花と向かい合って椅子に座り、人差し指で眼鏡を押し上げ、透明なレンズを煌めかせた。

「千影様が教室に入られた瞬間、クラスメイトたちはざわついたわ。誰? と訝る人もいたわね。視線の集中砲火を浴びながら千影様が席についたときの反応は見ものだったわよ。『うっそー天坂くんなの!? 本当に!?』『イケメンじゃん!』――女子たちは大騒ぎよ。顔を赤くして見惚れる人もいたし、噂を聞きつけて休憩時間中に別のクラスからわざわざ見に来る女子も続出したわ」

「うう……やっぱり……そうなると思ってた……」
 菜乃花は膝の上で両手を組み、心の内に湧き上がる不安を鎮めるために左手の親指をぎゅっと押さえた。

「休憩時間の度に囲まれて質問攻めにされて、千影様はたじたじだったわ。趣味や誕生日を聞き出そうとする人もいれば、『好きな人いるの?』と彼女の有無を聞く人もいた。一番強烈だったのは井上さんね。井上さんはG組のスクールカーストの頂点に立つ人なの。彼女は皆の前で堂々と『彼女がいないなら私と付き合って』と言い放ち、千影様を囲んでいた女子たちの度肝を抜いたわ」

「るるかがいるからってちゃんと断ったよね!?」
 ベッドの端に両手をついて身を乗り出す。

 額がくっつきそうだったからだろう、杏は冷静に上体を引いて答えた。

「いいえ。千影様はるるかを言い訳にはしなかったわ」
「え……」
 息を呑み、身体を引いて力なくベッドに座り込む。

 もしや、井上は千影が一目惚れしてもおかしくないような超美人だったのだろうか。

 元カノが人形のように可憐だったことを思えば、千影が面食いである可能性は非常に高い。
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