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86:イメチェンです!(1)
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土曜日の夕方、午後五時過ぎ。
「……なんてことなの……」
菜乃花は両手で口を覆い、感動に打ち震えていた。
「いや、大げさだろ」
大広間の入り口には黒縁眼鏡を外し、十字模様が入ったワインレッドのTシャツに黒のズボンを合わせた千影が立っている。
普段装飾品を身に着けない彼はシンプルな輪のデザインのシルバーアクセサリーを胸に下げ、左手に腕時計を巻き、まるでモデルのようだった。
長すぎる前髪が切られたおかげで、どんな表情をしているのかも一目瞭然。
彼は新しい髪型に慣れないらしく、気まずそうな顔で頭を掻いていた。
「どうよ?」
今日一日弟を連れ出し、別人のように変身させて帰ってきた総司はドヤ顔で腰に手を当てた。
「素晴らしいです! さすが先輩です! もう尊敬です感服です!! 一億点差し上げます!!」
総司の手を掴み、菜乃花はぶんぶん上下に振った。
「そうだろうそうだろう」
総司はご満悦のようだ。
どうしてこんな状況になったかといえば、話は昨日にさかのぼる。
昨日は運命の期末テストの返却日で、各教科の赤点のボーダーが判明した。
最も懸念していた化学の赤点は35点、千影は37点だった。
他にもギリギリな教科はあったものの、目標である赤点の回避に成功したのは間違いなく、千影は上機嫌で礼を申し出てきた。
そこで菜乃花がねだったのがイメチェンだ。
イメチェンと言っても何をどうすれば……と、途方に暮れた千影に手を差し伸べたのが、大広間で一緒に話を聞いていた総司。
果たして、総司に任せたのは大正解だった。
「千影くん格好良いよ!! 超格好良い!! いまの千影くんを見たら悪口を言ってたクラスメイトだって光の速さで手のひら返しすること間違いなしだよ!? 何あのイケメンって大騒ぎするよ! 私は騒ぐ! 現に心臓が大騒ぎしている!!」
ひとしきり総司をほめちぎった菜乃花は千影の前に立ち、まくしたてた。
「うん、それは園田さんだけだ。ちょっと過剰反応しすぎ……」
照れているらしく、千影は軽く丸めた拳で額を押さえた。
「いや過剰なんかじゃないよ! どうしよう、こんなに格好良くなっちゃったらライバルが増える!! 見える、私には見える! 月曜日、学校に行った千影くんを見て女子たちがコントみたいに一斉に倒れて失神する未来が!!」
菜乃花は両手を広げて天井を仰いだ。
「ねーよそんな未来」
ソファで紅茶を飲みながら、冷静に大河がツッコむ。
大広間のテーブルにはティーポットと茶菓子が置いてある。
天坂兄弟が帰ってくるまで、菜乃花たちは大広間で紅茶を楽しんでいた。
「……なんてことなの……」
菜乃花は両手で口を覆い、感動に打ち震えていた。
「いや、大げさだろ」
大広間の入り口には黒縁眼鏡を外し、十字模様が入ったワインレッドのTシャツに黒のズボンを合わせた千影が立っている。
普段装飾品を身に着けない彼はシンプルな輪のデザインのシルバーアクセサリーを胸に下げ、左手に腕時計を巻き、まるでモデルのようだった。
長すぎる前髪が切られたおかげで、どんな表情をしているのかも一目瞭然。
彼は新しい髪型に慣れないらしく、気まずそうな顔で頭を掻いていた。
「どうよ?」
今日一日弟を連れ出し、別人のように変身させて帰ってきた総司はドヤ顔で腰に手を当てた。
「素晴らしいです! さすが先輩です! もう尊敬です感服です!! 一億点差し上げます!!」
総司の手を掴み、菜乃花はぶんぶん上下に振った。
「そうだろうそうだろう」
総司はご満悦のようだ。
どうしてこんな状況になったかといえば、話は昨日にさかのぼる。
昨日は運命の期末テストの返却日で、各教科の赤点のボーダーが判明した。
最も懸念していた化学の赤点は35点、千影は37点だった。
他にもギリギリな教科はあったものの、目標である赤点の回避に成功したのは間違いなく、千影は上機嫌で礼を申し出てきた。
そこで菜乃花がねだったのがイメチェンだ。
イメチェンと言っても何をどうすれば……と、途方に暮れた千影に手を差し伸べたのが、大広間で一緒に話を聞いていた総司。
果たして、総司に任せたのは大正解だった。
「千影くん格好良いよ!! 超格好良い!! いまの千影くんを見たら悪口を言ってたクラスメイトだって光の速さで手のひら返しすること間違いなしだよ!? 何あのイケメンって大騒ぎするよ! 私は騒ぐ! 現に心臓が大騒ぎしている!!」
ひとしきり総司をほめちぎった菜乃花は千影の前に立ち、まくしたてた。
「うん、それは園田さんだけだ。ちょっと過剰反応しすぎ……」
照れているらしく、千影は軽く丸めた拳で額を押さえた。
「いや過剰なんかじゃないよ! どうしよう、こんなに格好良くなっちゃったらライバルが増える!! 見える、私には見える! 月曜日、学校に行った千影くんを見て女子たちがコントみたいに一斉に倒れて失神する未来が!!」
菜乃花は両手を広げて天井を仰いだ。
「ねーよそんな未来」
ソファで紅茶を飲みながら、冷静に大河がツッコむ。
大広間のテーブルにはティーポットと茶菓子が置いてある。
天坂兄弟が帰ってくるまで、菜乃花たちは大広間で紅茶を楽しんでいた。
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