上 下
86 / 107

86:イメチェンです!(1)

しおりを挟む
 土曜日の夕方、午後五時過ぎ。

「……なんてことなの……」
 菜乃花は両手で口を覆い、感動に打ち震えていた。

「いや、大げさだろ」
 大広間の入り口には黒縁眼鏡を外し、十字模様が入ったワインレッドのTシャツに黒のズボンを合わせた千影が立っている。

 普段装飾品を身に着けない彼はシンプルな輪のデザインのシルバーアクセサリーを胸に下げ、左手に腕時計を巻き、まるでモデルのようだった。

 長すぎる前髪が切られたおかげで、どんな表情をしているのかも一目瞭然。

 彼は新しい髪型に慣れないらしく、気まずそうな顔で頭を掻いていた。

「どうよ?」
 今日一日弟を連れ出し、別人のように変身させて帰ってきた総司はドヤ顔で腰に手を当てた。

「素晴らしいです! さすが先輩です! もう尊敬です感服です!! 一億点差し上げます!!」
 総司の手を掴み、菜乃花はぶんぶん上下に振った。

「そうだろうそうだろう」
 総司はご満悦のようだ。

 どうしてこんな状況になったかといえば、話は昨日にさかのぼる。
 昨日は運命の期末テストの返却日で、各教科の赤点のボーダーが判明した。

 最も懸念していた化学の赤点は35点、千影は37点だった。
 他にもギリギリな教科はあったものの、目標である赤点の回避に成功したのは間違いなく、千影は上機嫌で礼を申し出てきた。

 そこで菜乃花がねだったのがイメチェンだ。

 イメチェンと言っても何をどうすれば……と、途方に暮れた千影に手を差し伸べたのが、大広間で一緒に話を聞いていた総司。

 果たして、総司に任せたのは大正解だった。

「千影くん格好良いよ!! 超格好良い!! いまの千影くんを見たら悪口を言ってたクラスメイトだって光の速さで手のひら返しすること間違いなしだよ!? 何あのイケメンって大騒ぎするよ! 私は騒ぐ! 現に心臓が大騒ぎしている!!」
 ひとしきり総司をほめちぎった菜乃花は千影の前に立ち、まくしたてた。

「うん、それは園田さんだけだ。ちょっと過剰反応しすぎ……」
 照れているらしく、千影は軽く丸めた拳で額を押さえた。

「いや過剰なんかじゃないよ! どうしよう、こんなに格好良くなっちゃったらライバルが増える!! 見える、私には見える! 月曜日、学校に行った千影くんを見て女子たちがコントみたいに一斉に倒れて失神する未来が!!」
 菜乃花は両手を広げて天井を仰いだ。

「ねーよそんな未来」
 ソファで紅茶を飲みながら、冷静に大河がツッコむ。

 大広間のテーブルにはティーポットと茶菓子が置いてある。
 天坂兄弟が帰ってくるまで、菜乃花たちは大広間で紅茶を楽しんでいた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

妻がエロくて死にそうです

菅野鵜野
大衆娯楽
うだつの上がらないサラリーマンの士郎。だが、一つだけ自慢がある。 美しい妻、美佐子だ。同じ会社の上司にして、できる女で、日本人離れしたプロポーションを持つ。 こんな素敵な人が自分のようなフツーの男を選んだのには訳がある。 それは…… 限度を知らない性欲モンスターを妻に持つ男の日常

転職してOLになった僕。

大衆娯楽
転職した会社で無理矢理女装させられてる男の子の話しです。 強制女装、恥辱、女性からの責めが好きな方にオススメです!

お嬢様、お仕置の時間です。

moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。 両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。 私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。 私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。 両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。 新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。 私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。 海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。 しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。 海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。 しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。

男子中学生から女子校生になった僕

大衆娯楽
僕はある日突然、母と姉に強制的に女の子として育てられる事になった。 普通に男の子として過ごしていた主人公がJKで過ごした高校3年間のお話し。 強制女装、女性と性行為、男性と性行為、羞恥、屈辱などが好きな方は是非読んでみてください!

壁の薄いアパートで、隣の部屋から喘ぎ声がする

サドラ
恋愛
最近付き合い始めた彼女とアパートにいる主人公。しかし、隣の部屋からの喘ぎ声が壁が薄いせいで聞こえてくる。そのせいで欲情が刺激された両者はー

可愛すぎるクラスメイトがやたら俺の部屋を訪れる件 ~事故から助けたボクっ娘が存在感空気な俺に熱い視線を送ってきている~

蒼田
青春
 人よりも十倍以上存在感が薄い高校一年生、宇治原簾 (うじはられん)は、ある日買い物へ行く。  目的のプリンを買った夜の帰り道、簾はクラスメイトの人気者、重原愛莉 (えはらあいり)を見つける。  しかしいつも教室でみる活発な表情はなくどんよりとしていた。只事ではないと目線で追っていると彼女が信号に差し掛かり、トラックに引かれそうな所を簾が助ける。  事故から助けることで始まる活発少女との関係。  愛莉が簾の家にあがり看病したり、勉強したり、時には二人でデートに行ったりと。  愛莉は簾の事が好きで、廉も愛莉のことを気にし始める。  故障で陸上が出来なくなった愛莉は目標新たにし、簾はそんな彼女を補佐し自分の目標を見つけるお話。 *本作はフィクションです。実在する人物・団体・組織名等とは関係ございません。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

処理中です...