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70:宇宙で一番(2)
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「好きです。大好きです。世界で一番あなたが好きです。だから、わ、私と……付き合ってもらえませんか!」
菜乃花は顔を真っ赤にして右手を差し出した。
「ごめんなさい」
完。
(いや、完じゃない! 完で終わってたまるものか! ちょっと杏ちゃん、合掌しないで!!)
『ご愁傷様です……』と言わんばかりに手を合わせて頭を下げている杏を横目で厳しく睨み、菜乃花は千影に向き直った。
「そっか……そうだよね。千影くんにはるるかがいるもんね。知ってるのに、告白なんてして、ごめん」
菜乃花は無理に笑って、行き場を失った右手を引っ込めた。
(即答で『ごめんなさい』か……)
仄かに抱いていた期待は跡形もなく潰され、ずきずきと胸が痛む。
それでも泣かなかったのは、これ以上千影を困らせたくない一心だった。
「いや。こっちこそごめん。気持ちは嬉しいんだ。でも……いまの告白の言葉はちょっと……トラウマが蘇ったというか……」
千影は視線を逸らし、小さな声で言い淀んだ。
「トラウマ?」
「……琴原さんも『世界で一番君が好き』って言ってくれた。でも、その翌日にやっぱり兄貴が好きだって言って、フラれた」
(こ~と~は~ら~)
『てへっ』と可愛らしく舌を出した想像上の音羽に菜乃花が呪詛をかけたとしても、いまばかりは許されたと思う。
「私は琴原さんとは違うよ? ずっと千影くんのことが好きでいる自信があるよ?」
胸に手を当ててアピールする。
「……悪いけど信用できない」
「だよね」
その言葉を口にすることに罪悪感を覚えているのか、千影は眉間に苦悩の皺を寄せているが、菜乃花は特に傷つきもせず頷いた。
(千影くんって、幼少の頃から天坂先輩と比較され続けてきたせいで自己評価がめちゃくちゃ低いんだよね。ずっと千影くんを見てた杏ちゃん情報によると、琴原さんは千影くんが初めて好きになった子。千影くんのほうから告白して、受け入れられて。文字通り夢中で好きだった子に『ごめんネ、やっぱり貴方より何もかも優れたお兄さんが好き☆』なんて言われたら……そりゃあ自己評価も最低まで落ち込むし、女性不信にもなるよねえ……)
二次元の彼女の魅力といえば、完璧な容姿、有名声優の癒し系ボイス、可憐な仕草、きゅんと胸がときめくような甘い台詞……色々あるだろうが、千影にとって最重要なのは『一途なところ』ではないだろうか。
二次元美少女《るるか》は絶対に千影を裏切らず、千影だけを愛してくれる。
その安心感があるからこそ、千影はるるかを彼女として認めているのではないだろうか。
「……怒らないのか? これまで俺にあんなによくしてくれたのに」
千影は眼鏡のレンズの向こうから、窺うような目を向けてきた。
菜乃花は顔を真っ赤にして右手を差し出した。
「ごめんなさい」
完。
(いや、完じゃない! 完で終わってたまるものか! ちょっと杏ちゃん、合掌しないで!!)
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「そっか……そうだよね。千影くんにはるるかがいるもんね。知ってるのに、告白なんてして、ごめん」
菜乃花は無理に笑って、行き場を失った右手を引っ込めた。
(即答で『ごめんなさい』か……)
仄かに抱いていた期待は跡形もなく潰され、ずきずきと胸が痛む。
それでも泣かなかったのは、これ以上千影を困らせたくない一心だった。
「いや。こっちこそごめん。気持ちは嬉しいんだ。でも……いまの告白の言葉はちょっと……トラウマが蘇ったというか……」
千影は視線を逸らし、小さな声で言い淀んだ。
「トラウマ?」
「……琴原さんも『世界で一番君が好き』って言ってくれた。でも、その翌日にやっぱり兄貴が好きだって言って、フラれた」
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『てへっ』と可愛らしく舌を出した想像上の音羽に菜乃花が呪詛をかけたとしても、いまばかりは許されたと思う。
「私は琴原さんとは違うよ? ずっと千影くんのことが好きでいる自信があるよ?」
胸に手を当ててアピールする。
「……悪いけど信用できない」
「だよね」
その言葉を口にすることに罪悪感を覚えているのか、千影は眉間に苦悩の皺を寄せているが、菜乃花は特に傷つきもせず頷いた。
(千影くんって、幼少の頃から天坂先輩と比較され続けてきたせいで自己評価がめちゃくちゃ低いんだよね。ずっと千影くんを見てた杏ちゃん情報によると、琴原さんは千影くんが初めて好きになった子。千影くんのほうから告白して、受け入れられて。文字通り夢中で好きだった子に『ごめんネ、やっぱり貴方より何もかも優れたお兄さんが好き☆』なんて言われたら……そりゃあ自己評価も最低まで落ち込むし、女性不信にもなるよねえ……)
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その安心感があるからこそ、千影はるるかを彼女として認めているのではないだろうか。
「……怒らないのか? これまで俺にあんなによくしてくれたのに」
千影は眼鏡のレンズの向こうから、窺うような目を向けてきた。
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