上 下
53 / 107

53:お願いごと

しおりを挟む
「頼む、兄貴。園田さんをこのまま0号館に住ませてあげてくれ」
「お願いします。私にできることがあれば何でもします」
 0号館の絶対君主たる総司の部屋で、菜乃花は千影に続いて深く頭を下げた。

「……。千影がおれに頼みごとをするなんてねえ……」
 パソコンの前に置かれた立派な椅子に足を組んで座り、総司は切れ長の目を細めた。

「そんなに園田さんのこと気に入ってるんだ?」
「ああ。大事な友人だと思ってる」
 千影の返答には迷いがなかった。
 友人の前に『大事な』という形容がついたことが嬉しくて、胸の内に小さな明かりが灯ったかのようだ。

「友人、ね。言いたいことはわかったから顔を上げなよ、二人とも」
 恐る恐る顔を上げる。
 ここに来るまでに菜乃花が泣いたことは顔を見た瞬間にわかっただろう。
 泣き腫らした顔を見られるのは少々恥ずかしい。

 それでも、総司は同情の片鱗すら見せず、報告書でも読み上げるような口調で言った。

「知ってるとは思うけど、まず前提として一般庶民に0号館に住む資格はない。ここは上流階級の子女だけが住める特別な場所で、普通なら希望を出しても審査で弾かれる。園田さんはあくまで特例だ。千影が怪我をさせてしまったから、理事長や先生方に頼み込んで、期間限定という条件付きで特別に許可を得たんだよ。4号館に戻りたくないのは園田さんの個人的な理由だろ? おれに面倒を見る義理はない」

 返す言葉がなかった。
 普段は総司をからかって楽しんでいる要も、いまばかりは壁際に控えて何も言わない。

 従者としての立場をわきまえ、ただの置物としてそこにいる。

「なんでもするっていうけどさ。君にできることは誰にだってできるんだよ。おれにとって君は必要ない。なるほど君は千影の友人なのかもしれない。でも、だから何? 君を住まわせることでおれに何のメリットがある?」

 総司は笑っても怒ってもいない。
 ただひたすら静かな目が、平坦な口調が、容赦なく菜乃花を追い詰める。

「有用性を示してみせてよ。それが無理なら却下。話は終わりだ」

 興味を失くした玩具を放るように、総司が手を振る。
 菜乃花は何も言えず、ただ立ち尽くした。

 雨の音が、空しく部屋に響いている。

(……やっぱりダメだよね。そりゃそうだよね……)
 唇を噛んで俯く。

 なんでもするとまで言っても必要ないと切り捨てられたのだから、これ以上は時間の無駄だ。
 交渉の余地などない。
 菜乃花には4号館に戻る未来しかありえない。
 結局、ここまで来ても、それを痛感させられただけだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

一般男性の俺が転生したらの小5女子になったので周りに欲をぶつけてやる!

童好P
青春
内容を簡単に言えばタイトルの通りです そして私の小説のコメディ枠です AI画像を使用していますので少しずつ内容や絵がズレる可能性がありますのでご了承ください

女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。

矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。 女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。 取って付けたようなバレンタインネタあり。 カクヨムでも同内容で公開しています。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

水曜日は図書室で

白妙スイ@書籍&電子書籍発刊!
青春
綾織 美久(あやおり みく)、高校二年生。 見た目も地味で引っ込み思案な性格の美久は目立つことが苦手でクラスでも静かに過ごしていた。好きなのは図書室で本を見たり読んだりすること、それともうひとつ。 あるとき美久は図書室で一人の男子・久保田 快(くぼた かい)に出会う。彼はカッコよかったがどこか不思議を秘めていた。偶然から美久は彼と仲良くなっていき『水曜日は図書室で会おう』と約束をすることに……。 第12回ドリーム小説大賞にて奨励賞をいただきました! 本当にありがとうございます!

ハーレム相撲部~女4人に男1人。おまけにかわいい守護霊も憑いてきて、一体何がどうしてこうなった?~

Ring_chatot
青春
 高ヶ原高等学校には相撲部があるが、土俵はない。そのため活動場所は学校近くの、どこにでもあるような鹿島神社であった。  神社の土俵で活動していた相撲部は、今や廃部寸前で、今年二年生となる部員の三橋裕也(みつはし ゆうや)は一人途方に暮れていた。  そんな彼に、この神社に暮らしている裕也の同級生、本宮明日香が『一緒に人助けをしよう』と誘われる。  なんでも、この鹿島神社に、雷神・タケミカヅチが久々に来訪なさるらしい。それを盛大に迎えるためには、信仰心を集める必要があるのだとか。  そんなことを明日香と、神社に住まう神使に請われ、断れなかった裕也は人助けを開始する。  すると、人助けをするうちに相撲部にはなぜか女性部員が次々と入りはじめ、何時しか女4人に男1人という妙な部活となってしまうのであった。ここは相撲部だぞ!? 人助け部じゃないぞ!? ハーレムなんて要らないから男性部員が入ってくれ!  最初は頼まれ、流されるままに人助けをしていた裕也も、頼られ、慕われ、感謝されるうちに、人助けというものが他人だけでなく自分自身も救っていることに気づく。自身の生い立ちに負い目を持っていた彼も、いつしかその目は未来を向くようになっていった。

校長先生の話が長い、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
学校によっては、毎週聞かされることになる校長先生の挨拶。 学校で一番多忙なはずのトップの話はなぜこんなにも長いのか。 とあるテレビ番組で関連書籍が取り上げられたが、実はそれが理由ではなかった。 寒々とした体育館で長時間体育座りをさせられるのはなぜ? なぜ女子だけが前列に集められるのか? そこには生徒が知りえることのない深い闇があった。 新年を迎え各地で始業式が始まるこの季節。 あなたの学校でも、実際に起きていることかもしれない。

処理中です...