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25:多大なコンプレックス(1)

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 二日後、金曜日。昼休憩中。
 四限目の授業が少し長引いたため、菜乃花は心持ち急いで食堂へ行った。

(昨日は千影くんの周りの席が埋まっちゃってて喋れなかったけど。今日は一緒に食べられたらいいな)
 普段の学校生活において、クラスの異なる千影と菜乃花が接触するチャンスは昼休憩くらいしかない。

 寮では家庭教師を行っているし、話す機会を作ろうと思えばいくらでも作れるのだが、どうせなら学校でも会いたい。
 一秒でも長く一緒にいたいし、彼のことをもっと良く知りたい。

(杏ちゃんも「千影様は二次元の彼女で満足してしまっているのだから、自分から攻めない限り永遠の片思いで終わってしまうわよ。振り向いてほしいなら、まずは三次元の女も良いものだと思って頂くこと。作戦はずばり『ガンガンいこうぜ』よ」って言ってたしな)

 昨日の夜、部屋でそう言われたときは杏が某有名RPG好きだと察し、恋愛相談よりもむしろゲーム話で盛り上がってしまったが、それはまあ余談である。

 開いたままの扉を抜け、食欲を刺激する匂いが立ち込める食堂に入るや否や、菜乃花は千影の姿を探した。

 広い食堂はほとんどが埋まり、生徒たちの喋る声で実に賑やかだ。
 誰とも会話することなく一人で静かに食事している者は少数派だが、今日も千影はその少数派に属していた。

(あ。いた)
 菜乃花の立っている場所からだと、千影の身体は大半が観葉植物の陰に隠れている。
 それでも、少しだけ見える頭と肩のラインで彼だと断定できた。

 彼の向かいの席も、右隣の席も空いている。

(やった! チャンス!)
 菜乃花は意気揚々と食堂のカウンターに行った。
 バッジを見せ、食券も買うことなく目当ての日替わり定食を手に入れる。

 今日の日替わり定食はサラダとわかめスープ、ハンバーグ、学園食堂製の豆腐、きんぴらごぼう、ほうれん草の卵和え、酢のもの、ナスの揚げびたし。

 毎度のことながら、無料で食べているのが申し訳なくなるくらいのハイクオリティな和食である。

 冷水機が置かれたコーナーでコップに水を汲み、菜乃花は痛みを堪えて両手でトレーを持ち、千影の元へ行った。

「千影くん。前、座ってもいい?」
「ああ。どうぞ……。手、大丈夫?」
「うん。まだちょっと痛いけど、初日に比べればかなりマシだよ」
 テーブルにトレーを置き、椅子を引いて座る。

 千影の前にはイチゴ牛乳のパックと、空になった何かの包みが置いてあった。
 購買で買ってきたのか、千影はカレーパンを頬張っている。
 美味しいのか不味いのかよくわからない、なんとも複雑な表情で。
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