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07:落差が凄い
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五桜学園の食堂は広くて立派だ。
お洒落なデザインの照明が吊り下げられた天井、壁にかけられた美しい絵画、ところどころに置かれた観葉植物。
テーブルは長方形と円形の二種類があり、備えられた椅子は座面にクッションが張られた高級なもの。
昼のピークは過ぎたこともあって、食堂はかなり空いていた。
菜乃花たちは緩やかな螺旋階段の近くのテーブル席に向かい合って座った。
食堂は吹き抜け構造になっていて、どの席も利用可能だが、二階は上級生が使う場所だという暗黙の了解がある。
たとえ二階が空いていても、一年が二階に上がれば上級生たちの無言の圧力に晒される。
生意気な後輩だと目をつけられるのはご免なので、菜乃花は一度も階段を上ったことがない。
(あ。天坂先輩だ)
慣れない左手を使ってネギトロ丼を食べていた菜乃花は、二階の一角に目を留めた。
息を呑むほど美しい少年が八人掛けのテーブルに座り、友人らしき男女と和やかに会話している。
彼は二年A組、天坂総司。
絹のように艶やかな髪、くっきりとした二重まぶた、力強い瞳、通った鼻筋、リップクリームも塗っていないのにしっとりと潤んだ桃色の唇。
180センチの痩身は理想的な筋肉の付き方をしている。
成績は入学から不動の1位、全国模試ですら1位になることがあるという。
それでいてスポーツも万能、芸術面にも秀で、何をさせても1位を狙える多芸多才っぷり。
超一流企業『天坂物産』の御曹司で、五桜学園理事長の甥でもある彼は高嶺の花のような存在だ。
大勢のファンを抱えた人気者はどこにいても注目の的。
いまも食堂のあちこちから、憧れと羨望のこもった熱い視線が彼に注がれていた。
「…………」
向かいの席の少年に目を戻す。
総司の弟は顔を伏せ、黙々と唐揚げ定食を食べている。
菜乃花たちの隣のテーブルの女子グループは「誕生日に車を買ってもらって~」という、いかにも社長令嬢らしい、セレブな話に花を咲かせている。
彼女たちだけではなく、食堂にいる誰もが千影に一瞥もくれない。
「兄弟なのに落差が酷いって思ってるだろ」
千影が視線だけを上げ、いきなり図星を突いてきた。
「!!! えっと――」
「謝らなくていい。兄貴と比べてダメな奴。何の取り柄もない、つまらない人間。耳にタコができるくらい言われたよ。でも、事実その通りだから、言い返せないんだよな」
千影は怒りも悲しみもない無表情で、淡々と言った。
他者に何度も貶され続けた結果、感情が麻痺したのかもしれない。
お洒落なデザインの照明が吊り下げられた天井、壁にかけられた美しい絵画、ところどころに置かれた観葉植物。
テーブルは長方形と円形の二種類があり、備えられた椅子は座面にクッションが張られた高級なもの。
昼のピークは過ぎたこともあって、食堂はかなり空いていた。
菜乃花たちは緩やかな螺旋階段の近くのテーブル席に向かい合って座った。
食堂は吹き抜け構造になっていて、どの席も利用可能だが、二階は上級生が使う場所だという暗黙の了解がある。
たとえ二階が空いていても、一年が二階に上がれば上級生たちの無言の圧力に晒される。
生意気な後輩だと目をつけられるのはご免なので、菜乃花は一度も階段を上ったことがない。
(あ。天坂先輩だ)
慣れない左手を使ってネギトロ丼を食べていた菜乃花は、二階の一角に目を留めた。
息を呑むほど美しい少年が八人掛けのテーブルに座り、友人らしき男女と和やかに会話している。
彼は二年A組、天坂総司。
絹のように艶やかな髪、くっきりとした二重まぶた、力強い瞳、通った鼻筋、リップクリームも塗っていないのにしっとりと潤んだ桃色の唇。
180センチの痩身は理想的な筋肉の付き方をしている。
成績は入学から不動の1位、全国模試ですら1位になることがあるという。
それでいてスポーツも万能、芸術面にも秀で、何をさせても1位を狙える多芸多才っぷり。
超一流企業『天坂物産』の御曹司で、五桜学園理事長の甥でもある彼は高嶺の花のような存在だ。
大勢のファンを抱えた人気者はどこにいても注目の的。
いまも食堂のあちこちから、憧れと羨望のこもった熱い視線が彼に注がれていた。
「…………」
向かいの席の少年に目を戻す。
総司の弟は顔を伏せ、黙々と唐揚げ定食を食べている。
菜乃花たちの隣のテーブルの女子グループは「誕生日に車を買ってもらって~」という、いかにも社長令嬢らしい、セレブな話に花を咲かせている。
彼女たちだけではなく、食堂にいる誰もが千影に一瞥もくれない。
「兄弟なのに落差が酷いって思ってるだろ」
千影が視線だけを上げ、いきなり図星を突いてきた。
「!!! えっと――」
「謝らなくていい。兄貴と比べてダメな奴。何の取り柄もない、つまらない人間。耳にタコができるくらい言われたよ。でも、事実その通りだから、言い返せないんだよな」
千影は怒りも悲しみもない無表情で、淡々と言った。
他者に何度も貶され続けた結果、感情が麻痺したのかもしれない。
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