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120:祈りと願いを胸に(3)

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「もしもこの先、ハクアが泣くことがあれば、あなたが涙を拭ってあげてね」
「大丈夫です。泣かせません。約束します」
「頼もしいわ。ありがとうニナ。本当にありがとう――」
 エルマリアの身体が弾け、いくつもの光が生まれた。
 光は空高く昇っていき、雲を越えて見えなくなった。

(……無事に虹の橋を渡って、旦那さんに会えましたか? エルマリアさん。ハクアさんのことは任せてください。遠い遠い未来に、わたしも虹の橋を渡ります。そこであなたに会ったときに怒られることのないよう、精一杯頑張りますね――)

「何してるんだ? 皆して、ぼうっと空を見上げて」

 声が聞こえて、新菜たちは遥かに高い空を仰ぐのを止めた。
 前方からハクアが歩いてくる。
 涙の痕が残るその顔は、純粋に不思議そうだ。

 新菜たちは互いに目を合わせた。
 声にも出さず、一瞬で取り決める。
 ――いまの出来事は、ハクアには話さない。
 ただ、受け取ったエルマリアの想いを、それぞれの心に刻もうと。

「いいえ、なんでもありません。それよりハクア様、髪……」
 一房だけ伸ばしていたハクアの後ろ髪がなくなっていた。
「切った。エルにもらった組み紐もなくなったしな」
 ハクアは右手を軽くあげた。
 右手を竜の形態に変化させ、鋭い爪で切断したのだろう。

「もう過去に縛られるのは止めた。これからは未来を生きていきたいんだ。愛する人と」
 夕陽を背に、ハクアが笑った。
 曇りのない、どこかすっきりとした笑顔で手を差し伸べてくる。
 風が吹いて、ハクアの銀髪が揺れた。
 ざあ、と辺りの枝葉が音を立てる。

 言葉にできない感情が胸いっぱいに込み上げ、泣き出してしまいそうだった。
 視界を滲ませていると、侯爵夫妻が肩を叩いてきた。
 イグニスが右肩、アマーリエが左肩に手を載せ、優しくハクアへと押し出す。
「……はい」
 新菜は二人に押されてハクアに歩み寄り、手を重ねた。
「帰りましょう、ハクア様」
 手を握ると、ハクアは力強く握り返してきた。
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