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101:死者の伝言(3)
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「ちょっと待っててください。アマーリエ様、地図ありますか!?」
新菜は引き返し、止まった二台の馬車の前で護衛たちと話していたアマーリエに尋ねた。
運良くあった大陸地図を持ち、再び発光体の元へ戻って広げる。
「どこかわかります!?」
発光体は地図を眺めてしばし考えているようだった。
縋る思いで見つめていると、発光体が動いた。
《ここ》
白く細い線が、地図のある一点を差した。
レノン王国の東端の森。
東に海を臨むこの場所は、貴族の別荘地だと家庭教師に習った。やはりミレーヌは家に帰ることなく隠れているようだ。
《ヴィラン伯爵の、別荘。ハクアは、地下牢に、囚われている》
「ヴィラン伯爵? 誰ですそれ?」
知らない名前だ。
ミレーヌの縁者を脳内に列挙してみるが、全く心当たりがない。
《ミレーヌの、浮気相手。あいつらは、あさっての満月を待って、ハクアの目を奪い、そのまま船で、国外へ、逃げる、つもり》
「うわあ……」
ミレーヌはどこまで罪を重ねれば気が済むのだろう。
宝石好きのミレーヌは恋人時代からアルベルトに散々貢がせていたらしいが、いざとなったら夫を捨てて浮気相手と逃げるとは。悪女ここに極まれりだ。
《絶対に、許さないで。ハクアを、助けて》
その声は切実な熱を帯びていた。
「はい。必ず」
新菜は表情を引き締め、頷いた。
居場所さえ割り出せれば後はどうにでもなる。どうにかしてみせる。
「ありがとうエルマリアさん! 貴重な情報提供感謝します!!」
地図を胸に抱き、急いで馬車に戻ろうとした新菜だが、
《待って》
儚い声に引き留められ、振り返った。
「なんですか?」
一秒が惜しい。新菜は走り出そうとする足を懸命に抑えた。
《頼みたいことが、あるの。全てが終わったら……ハクアを連れて、アヴァン帝国の、ルーネ村の、シュゼットという女性を、訪ねてほしい。ハクアは一つ……大きな……とても、大きな勘違いを……しているから……私は、どうしても……ハクアに……伝え……》
白い発光体は、徐々に輪郭を失い、消えた。
(……アヴァン帝国。ルーネ村のシュゼットさん)
新菜はその伝言を心に刻んだ。
後回しになるが、ハクアに再会できたら伝えよう。
――いいや、必ず再会してみせる!
「ハクア様の居場所がわかりました!!」
新菜はアマーリエたちに叫び、地図を広げた。
新菜は引き返し、止まった二台の馬車の前で護衛たちと話していたアマーリエに尋ねた。
運良くあった大陸地図を持ち、再び発光体の元へ戻って広げる。
「どこかわかります!?」
発光体は地図を眺めてしばし考えているようだった。
縋る思いで見つめていると、発光体が動いた。
《ここ》
白く細い線が、地図のある一点を差した。
レノン王国の東端の森。
東に海を臨むこの場所は、貴族の別荘地だと家庭教師に習った。やはりミレーヌは家に帰ることなく隠れているようだ。
《ヴィラン伯爵の、別荘。ハクアは、地下牢に、囚われている》
「ヴィラン伯爵? 誰ですそれ?」
知らない名前だ。
ミレーヌの縁者を脳内に列挙してみるが、全く心当たりがない。
《ミレーヌの、浮気相手。あいつらは、あさっての満月を待って、ハクアの目を奪い、そのまま船で、国外へ、逃げる、つもり》
「うわあ……」
ミレーヌはどこまで罪を重ねれば気が済むのだろう。
宝石好きのミレーヌは恋人時代からアルベルトに散々貢がせていたらしいが、いざとなったら夫を捨てて浮気相手と逃げるとは。悪女ここに極まれりだ。
《絶対に、許さないで。ハクアを、助けて》
その声は切実な熱を帯びていた。
「はい。必ず」
新菜は表情を引き締め、頷いた。
居場所さえ割り出せれば後はどうにでもなる。どうにかしてみせる。
「ありがとうエルマリアさん! 貴重な情報提供感謝します!!」
地図を胸に抱き、急いで馬車に戻ろうとした新菜だが、
《待って》
儚い声に引き留められ、振り返った。
「なんですか?」
一秒が惜しい。新菜は走り出そうとする足を懸命に抑えた。
《頼みたいことが、あるの。全てが終わったら……ハクアを連れて、アヴァン帝国の、ルーネ村の、シュゼットという女性を、訪ねてほしい。ハクアは一つ……大きな……とても、大きな勘違いを……しているから……私は、どうしても……ハクアに……伝え……》
白い発光体は、徐々に輪郭を失い、消えた。
(……アヴァン帝国。ルーネ村のシュゼットさん)
新菜はその伝言を心に刻んだ。
後回しになるが、ハクアに再会できたら伝えよう。
――いいや、必ず再会してみせる!
「ハクア様の居場所がわかりました!!」
新菜はアマーリエたちに叫び、地図を広げた。
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