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100:死者の伝言(2)

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「止めて、止めてください!!」
「ど、どうされたんですか」
「いいから早く!!」
 怒鳴るように叫ぶと、馬車は徐々に速度を緩めていった。
 後方を走っていた馬車も気づいて止まりつつある。

「ニナ? 一体どうしたのです?」
 叫び声で叩き起こされたアマーリエが、目をぱちくりしながら言う。
 フィーネもおろおろしていた。

「すみません、理由は後で!」
 馬車が止まり切るのを待つのももどかしく、新菜は扉を開け放って飛び降りた。
 身に纏っているのは重たいドレスではなく、戦闘用の軽装だ。
 鍛え上げた身体は新菜の意思を反映し、目的地まで速やかに動いた。

 木の下の白く淡い発光体は、変わらずに輪郭を揺らめかせている。
 人型ですらない。ただの細長い、白く淡い何かだ。
 それでも新菜は確信していた。

「エルマリアさん? あなた、エルマリアさんなんでしょう?」
 エルマリアらしき白い人型を見たという話は誰にもしていない。
 言ったところでハクアを混乱させるだけだと思ったからだ。
 あの日以降、新菜は白い人型を目撃することはなく、半ば夢として処理しかけていた。
 でももう夢ではないらしい。
 彼女がこのタイミングで現れたことには意味があるはずだ。

「わたしに何か伝えたいことがあるんですよね? ハクア様がどこに連れ去られたか知ってるんですか?」
 口早に問いかけた後で、新菜は顔をしかめた。

(違う。順序が逆だ)
 問い詰める前に謝らなければならない。
 エルマリアは新菜にハクアのことを託したのに、新菜はその場におらず、ハクアを守れなかった。
 エルマリアが新菜に失望し、怒っていても全く不思議ではない。

「ごめんなさい、守ってほしいと頼まれたのに、守れなくて。次は必ず守ってみせます。だからどうか教えてください」
 懇願すると、白い発光体から、ある方角に向かって一本の太い線が伸びた。
 これが人間だったら、手を伸ばした状態なのだろう。
 しかし方角だけ差されても、候補地は無限にある。

(どうしよ……あっそうだ、地図!!)
 どうしてもっと早く思いつかなかったのだろう。気が利かない自分の頭が恨めしい。
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