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97:家族
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「そんなの簡単なことですよ。ニナがハクアの子どもを産めばいいんです」
何でもないことのように、実にあっさりとアマーリエは言ってのけた。
「…………っとえええええええ!?」
奇声を上げ、新菜は大きくのけぞった。
「こ、こ、子どもって」
真っ赤になって口をぱくぱくさせる。
アマーリエは何をそんなに驚くのか、といわんばかりの平然とした態度で続けた。
「そうすればもしニナが死んでもハクアは独りにはならない。もしその子が死んでも孫が。さらにその子どもが。ハクアの家族になるでしょう?」
「…………」
「ハクアに家族を作る。それはニナにしかできないことだと思いますけれど」
「……………………」
「まあ、参考程度に考えておいてください。これはまだ未来の話です。まずはハクアを救出しなければ、未来そのものが失われてしまいますから」
「あ。そ、そうですよね。まずはハクア様を助けないと」
まだ赤く染まった顔を何度か縦に振り、ぺちっと頬を叩いて気合を入れる。
「ええ。……ニナはイグニスとハクアが出会ったときの話を聞いたことがありますか?」
唐突と思える話題の切り替えだったが、新菜は頷いた。
「……少しだけ。人間に追いかけられ、疲れて森で休憩しているときに、偶然イグニス様と出会ったと」
「それは嘘ではないですが、肝心なところが抜けていますね」
窓の外の雨脚は弱まっている。
もうすぐ止むかもしれない。
「肝心なところ?」
「ええ。――そのときハクアは瀕死の重傷を負っていました」
「……え」
そんな話、ハクアにもイグニスにも聞いたことがない。
フィーネも気になるのか、アマーリエを見つめていた。
「地面が赤く染まるほどの血を流していたと。もちろん全ては人間の仕業です」
沈痛な面持ちで、アマーリエは語る。
「イグニスはいまにも死にそうな竜を見つけて、大丈夫かと声をかけました。するとハクアは息も絶え絶えに懇願したそうです――『殺してくれ』と」
言葉が出ない。あまりにも衝撃的過ぎて、頭の中が真っ白だ。
ハクアは「休憩していたところをイグニスに見つかって逃げようとした」と言っていたが、あれは真っ赤な嘘だったのだ。恐らくハクアは新菜がショックを受けると思ったから事実を伏せた。
「いまでこそハクアはイグニスに全幅の信頼を寄せていますけれど。保護した当時は本当に苦労したそうですよ。突然癇癪を起こして暴れる、ありとあらゆる家財道具を破壊する、叫び出す。中でも家宝の壺を壊したことは大事件だったそうです。家から叩き出そうとする両親を宥めるのが大変だったと」
「…………」
信じられなかった。ハクアにそんな過去があったなんて。
「それでもイグニスが頑なにハクアを守ろうとしたのは、ハクアが泣くから。眠るとハクアは何度も魘されて、悲痛な声で泣いたそうです。独りぼっちの竜をここまで追い詰めたのは人間なんだから俺がどうにかしないと、とイグニスは苦笑していましたが、私は正直、ハクアに嫉妬していたんですよ。会ってもイグニスが話すのはハクアのことばかりで」
遠い昔を懐かしむように、アマーリエは目を細めた。
「あの二人の関係性は、なんと説明したら良いのでしょうね。種族を越えた唯一無二の親友。あるいは兄弟でしょうか。とにかく、特別な絆で固く結ばれているのですわ」
アマーリエの顔から笑みが消え、憂いが覆う。
何でもないことのように、実にあっさりとアマーリエは言ってのけた。
「…………っとえええええええ!?」
奇声を上げ、新菜は大きくのけぞった。
「こ、こ、子どもって」
真っ赤になって口をぱくぱくさせる。
アマーリエは何をそんなに驚くのか、といわんばかりの平然とした態度で続けた。
「そうすればもしニナが死んでもハクアは独りにはならない。もしその子が死んでも孫が。さらにその子どもが。ハクアの家族になるでしょう?」
「…………」
「ハクアに家族を作る。それはニナにしかできないことだと思いますけれど」
「……………………」
「まあ、参考程度に考えておいてください。これはまだ未来の話です。まずはハクアを救出しなければ、未来そのものが失われてしまいますから」
「あ。そ、そうですよね。まずはハクア様を助けないと」
まだ赤く染まった顔を何度か縦に振り、ぺちっと頬を叩いて気合を入れる。
「ええ。……ニナはイグニスとハクアが出会ったときの話を聞いたことがありますか?」
唐突と思える話題の切り替えだったが、新菜は頷いた。
「……少しだけ。人間に追いかけられ、疲れて森で休憩しているときに、偶然イグニス様と出会ったと」
「それは嘘ではないですが、肝心なところが抜けていますね」
窓の外の雨脚は弱まっている。
もうすぐ止むかもしれない。
「肝心なところ?」
「ええ。――そのときハクアは瀕死の重傷を負っていました」
「……え」
そんな話、ハクアにもイグニスにも聞いたことがない。
フィーネも気になるのか、アマーリエを見つめていた。
「地面が赤く染まるほどの血を流していたと。もちろん全ては人間の仕業です」
沈痛な面持ちで、アマーリエは語る。
「イグニスはいまにも死にそうな竜を見つけて、大丈夫かと声をかけました。するとハクアは息も絶え絶えに懇願したそうです――『殺してくれ』と」
言葉が出ない。あまりにも衝撃的過ぎて、頭の中が真っ白だ。
ハクアは「休憩していたところをイグニスに見つかって逃げようとした」と言っていたが、あれは真っ赤な嘘だったのだ。恐らくハクアは新菜がショックを受けると思ったから事実を伏せた。
「いまでこそハクアはイグニスに全幅の信頼を寄せていますけれど。保護した当時は本当に苦労したそうですよ。突然癇癪を起こして暴れる、ありとあらゆる家財道具を破壊する、叫び出す。中でも家宝の壺を壊したことは大事件だったそうです。家から叩き出そうとする両親を宥めるのが大変だったと」
「…………」
信じられなかった。ハクアにそんな過去があったなんて。
「それでもイグニスが頑なにハクアを守ろうとしたのは、ハクアが泣くから。眠るとハクアは何度も魘されて、悲痛な声で泣いたそうです。独りぼっちの竜をここまで追い詰めたのは人間なんだから俺がどうにかしないと、とイグニスは苦笑していましたが、私は正直、ハクアに嫉妬していたんですよ。会ってもイグニスが話すのはハクアのことばかりで」
遠い昔を懐かしむように、アマーリエは目を細めた。
「あの二人の関係性は、なんと説明したら良いのでしょうね。種族を越えた唯一無二の親友。あるいは兄弟でしょうか。とにかく、特別な絆で固く結ばれているのですわ」
アマーリエの顔から笑みが消え、憂いが覆う。
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