異世界転移したので、メイドしながらご主人様(竜)をお守りします!

星名柚花(恋愛小説大賞参加中)

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95:降りやまない雨(2)

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「……ハクア様が、わたしに?」
 戸惑いながら受け取る。
 ハクアがその手で直接渡してくれたなら、新菜は飛び上がって喜ぶことができたのに。

 複雑な気持ちでオレンジのリボンを引っ張ると、リボンはすぐに解けた。
 ハクアに渡したリボンもオレンジだったな、と思った。
 実はあのリボンはお気に入りでも何でもなかった。
 とにかく無事に帰って来てほしい、その一心からの行為だった。

 ハクアは新菜の好きな色がオレンジだと思ったからリボンもわざわざオレンジと指定したのだろうか。
 本当は新菜の好きな色は空の青だが、もしもそうならたったいまから一番好きな色はオレンジに変わる。

 リボンを解き、箱を開ける。
 台座に据えられた銀色のブレスレットがあった。
 中央には赤い宝石が象嵌されていて、左右に模様が入っている。

「……綺麗……」
 無意識に呟いていた。無意識だからこその本音だった。
 でもきっと、どんなものでも気に入らないわけがなかった。
 ハクアが自分のために選んでくれたのだから。
 台座から取り上げて、左手首に嵌める。
 左手を上げ、馬車の中央に浮かぶ魔法の光に照らしてみれば、赤い宝石がきらりと光った。

「気に入りましたか?」
「はい。とっても」
 ブレスレットを手元に引き寄せ、右手をかける。
 表面のつるりとした感触が肌に心地良かった。

「それは良かったですわ。ハクアが言っていましたの。ニナが私のブレスレットを見て、羨ましいと言っていた、と」
 アマーリエは自身の右手のブレスレットに触りながら笑んだ。

「……え」
 新菜は目を見開いた。
 侯爵邸に滞在して数日経った頃か。ハクアとトウカを交えて共に過ごした昼下がりのお茶会で、新菜は呟いたことがある。
 仲睦まじい侯爵夫妻の手首に光るブレスレットを見て、いいなあ羨ましいな、と。

「……馬鹿ですねえ、ハクア様……」
 目頭が熱くなる。鼻の奥がつんとする。
 視界が滲み、新菜は目を押さえて嗚咽した。
 新菜はブレスレットが欲しかったわけではない。お揃いのブレスレットをつけたいと思える相手がいることが羨ましかったのだ。

 きっとハクアは王都の雑貨店で、イグニスにからかわれながら、アマーリエにこっちのほうがいいんじゃないですかとアドバイスを受けながら、一生懸命に選んでくれたのだろう。

 ブレスレットそのものももちろん嬉しいが、何よりただ一言、何気ない呟きを覚えていてくれたのが嬉しい。
 ありがとうと言いたい。抱きついてお礼を言いたいくらいだ。
 でも、ハクアはこの場にいない。ミレーヌに連れ去られ、生死不明の状態だ。
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