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82:暗転(4)

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「ほらほらハクアさん、何ぼーっと突っ立ってるんですか。女の子がわざわざ迎えに来てくれたんですよ? 竜とはいえ、ここは男としてガツンと行かなきゃダメでしょう」
 女がハクアの後ろに回り、ぐいぐい背中を押してきた。
 口調から面白がっているのが伝わって来る。

「ガツンって。何を」
「さすがに俺たちも空気読みますよ。待ってますから、どうぞ二人で話してきてください。ほら、あそこ公園があるじゃないですか。デートには打ってつけですよ。行ってらっしゃい。イグニス様たちが来られたらちゃんと伝えておきますから」
「デートって、別にそんな」
「わあ、ありがとうございます、エルダさん、レイさん。ハクア様、行きましょう! これまでどうされていたのか、王都で王様とどんなお話をされてきたのか聞きたいです!」
 新菜は上機嫌でハクアの手を取り、引っ張った。
 たった四日会わなかっただけだというのに、そんなに寂しかったのだろうか。

「わかった。行くから引っ張るな」
 ハクアは眼鏡を外して上着の隠しに入れ、新菜に手を引かれるまま公園へ行った。
 公園といっても遊具などは何もない、ただ緑が広がる整備された空間だった。
 門の傍のベンチではカップルが愛を語り合っていたが、園内に人影はない。

「イグニス様たちはどうされたんですか?」
 並んで歩きながら、新菜が尋ねた。
「まだギルド支部で話してる。話はほとんど終わったし、すぐ来るはずだ」
「そうですか。だからハクア様はお一人で行動されていたんですね。王都はどうでした? 王様ってどんな方でしたか?」
「王都は街が綺麗だった。国王は思っていたほど怖くなかったな。正直に言うと、王宮に入った瞬間に王国軍に包囲されて一斉攻撃を受けるんじゃないかと疑っていた」

「あはは、ハクア様ったら心配性ですね。そんなことイグニス様たちが許されるわけないでしょう。ハクア様は愛されてるんですから」
 新菜は園内を進みながら笑ったが、ハクアはその笑みが気になった。
 遠くの星に焦がれるような、決して手に入らないものに憧れるような、そんな胸を突く雰囲気があったから。

「ニナ? どうかしたか?」
「いいえ。何も。お話の続きを聞かせてください」
 新菜はにっこり笑ってそう言った。
「そうだな、アマーリエは王妃似だと初めて知った。目の色や雰囲気が同じだった。きっとアマーリエも将来ああなるんだろうな――」
 園内を進んでいくにつれて、上機嫌だったはずの新菜の様子が目に見えておかしくなった。
 弾むような足取りで歩いてたはずの歩調が遅くなり、思い詰めたように顔が強張っている。
 王都で新菜への贈り物を買った、という話題を振ろうかと思ったのだが、それどころではないらしい。

「……なあ、どうしたんだ。何かあったんだろう? 悩み事があるなら話してくれ」
 どうにも気になって、ハクアは問い質した。

 新菜が足を止めた。
 ちょうどそこは園内の歩道が交差する場所で、向かい合って立つ二人の左手には丸い噴水がある。
 噴水の中央には女神像。
 女神の足元から水が噴き出す構造らしいが、いまは噴き上がる水もなく、ただ、溜まった水が風にゆらゆら揺れているだけだった。
 葉っぱがいくつか水面に浮いている。
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