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77:吉兆か凶兆か(3)
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「わ。ど、どうしたんですか師匠。なんか今日優しすぎじゃないですか」
「ハクアさんに言われたんすよ。ニナちゃんは女の子なんすから訓練とはいえあんまり虐めないでくれって。というわけで俺との戦闘訓練はこれで終わりっす。もう師匠って呼ばなくてもいいっすよ」
「ええー! 嫌ですよ、わたしはもっともっと強くならないと」
訴えたが、ラオは肩を竦めた。
「戦闘の基礎はもう教えたっす。あとは自分で学ぶべきことばかりっす。バトルメイドを目指すと言ってたっすが、ニナちゃんの本職はメイドでしょう? 命を張るのは俺らに任せるっす。なんのために俺たちがいると思ってるっすか。あんまり強くなられたら傭兵の立つ瀬がないっすよ。舞踏会までゆっくりするっす。これは師匠からの最後の命令っす」
こちらを見るラオの眼差しは優しかった。
いや、いつだってラオは優しく、面倒見も良い。
兄がいたらこんな感じなのだろうか――たまにそんなことを考える。
「……なんでラオさんが隊長なのか不思議だったんですけど、いまならなんとなくわかる気がします」
「へ? どうしたっすかいきなり」
「いいえ」
新菜は面食らった様子のラオに笑って首を振った。
ラオは首を傾げたが、すぐに思い直したらしく、ぴっと人差し指を立てた。
「頑張ったご褒美に朗報を教えてあげるっす。王都での用事は終わったから、オークリンデのギルド支部に寄ってから帰って来るって、イグニス様から連絡があったっす。明日の夜には着く予定とのことっす」
「本当ですか!?」
新菜は顔を輝かせた。
二日の滞在予定だったのに、一日延長になったから、何かあったのではないかとやきもきしていたのだ。
何かあればすぐにイグニスは連絡を寄越してくれるはずだから大丈夫。
そう言い聞かせてきたのだが、こうして無事とはっきりわかれば、やはり喜ばずにはいられない。
「あははははは。ほんっとニナちゃんってわかりやすいっすねー。いいっすねー」
「う……」
単純馬鹿と言われたような気がして、それを否定できない現実に渋面になっていると、けらけら笑いながらラオは続けた。
「陛下とギルド長と話はついたらしいっす。無事に交渉終了、陛下は証書を書いてくださったらしいっす。ハクアさんの存在を公表するのは貴族が集まる夏至祭の晩餐会って決まったらしいっすよ。夏至祭まであと一週間。一週間後には冒険者ギルドも手出しできないことになるっす。なにせ国王が背後についてるわけっすからね。まあ、それでも大金狙いの馬鹿がやってくるかもしれないっすが、いまのニナちゃんなら大丈夫っす。俺たちもいるっすからね」
「そうですね。きっと大丈夫ですよね」
努力を重ねた結果、皮膚が厚くなった両手を握り締め、何度も頷く。
もしもハクアがこの先狙われることがあれば、新菜はできる限りの敵を倒す。
それでも手に負えない敵はラオたち傭兵に任せればいい。
それで大丈夫――きっと大丈夫のはずだ。
「ハクアさんに言われたんすよ。ニナちゃんは女の子なんすから訓練とはいえあんまり虐めないでくれって。というわけで俺との戦闘訓練はこれで終わりっす。もう師匠って呼ばなくてもいいっすよ」
「ええー! 嫌ですよ、わたしはもっともっと強くならないと」
訴えたが、ラオは肩を竦めた。
「戦闘の基礎はもう教えたっす。あとは自分で学ぶべきことばかりっす。バトルメイドを目指すと言ってたっすが、ニナちゃんの本職はメイドでしょう? 命を張るのは俺らに任せるっす。なんのために俺たちがいると思ってるっすか。あんまり強くなられたら傭兵の立つ瀬がないっすよ。舞踏会までゆっくりするっす。これは師匠からの最後の命令っす」
こちらを見るラオの眼差しは優しかった。
いや、いつだってラオは優しく、面倒見も良い。
兄がいたらこんな感じなのだろうか――たまにそんなことを考える。
「……なんでラオさんが隊長なのか不思議だったんですけど、いまならなんとなくわかる気がします」
「へ? どうしたっすかいきなり」
「いいえ」
新菜は面食らった様子のラオに笑って首を振った。
ラオは首を傾げたが、すぐに思い直したらしく、ぴっと人差し指を立てた。
「頑張ったご褒美に朗報を教えてあげるっす。王都での用事は終わったから、オークリンデのギルド支部に寄ってから帰って来るって、イグニス様から連絡があったっす。明日の夜には着く予定とのことっす」
「本当ですか!?」
新菜は顔を輝かせた。
二日の滞在予定だったのに、一日延長になったから、何かあったのではないかとやきもきしていたのだ。
何かあればすぐにイグニスは連絡を寄越してくれるはずだから大丈夫。
そう言い聞かせてきたのだが、こうして無事とはっきりわかれば、やはり喜ばずにはいられない。
「あははははは。ほんっとニナちゃんってわかりやすいっすねー。いいっすねー」
「う……」
単純馬鹿と言われたような気がして、それを否定できない現実に渋面になっていると、けらけら笑いながらラオは続けた。
「陛下とギルド長と話はついたらしいっす。無事に交渉終了、陛下は証書を書いてくださったらしいっす。ハクアさんの存在を公表するのは貴族が集まる夏至祭の晩餐会って決まったらしいっすよ。夏至祭まであと一週間。一週間後には冒険者ギルドも手出しできないことになるっす。なにせ国王が背後についてるわけっすからね。まあ、それでも大金狙いの馬鹿がやってくるかもしれないっすが、いまのニナちゃんなら大丈夫っす。俺たちもいるっすからね」
「そうですね。きっと大丈夫ですよね」
努力を重ねた結果、皮膚が厚くなった両手を握り締め、何度も頷く。
もしもハクアがこの先狙われることがあれば、新菜はできる限りの敵を倒す。
それでも手に負えない敵はラオたち傭兵に任せればいい。
それで大丈夫――きっと大丈夫のはずだ。
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