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73:抱擁とリボン(2)

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「そうだ。ハクア様。手を出してください」
 新菜はハクアの手に重ねていた手を持ち上げ、右側の髪を結っていたオレンジ色のリボンを解いた。
「手? どっちの?」
「じゃあ左手で」
 ハクアは素直に従い、左手を差し出してきた。
 袖を少しだけ下ろし、手首にリボンを巻きつけ、ちょうちょ結びをする。

「わたしはレッスンや剣の修行があるので、王都には一緒に行けません。だから、これをわたしの代わりに連れて行ってください。お守りです」
 当惑したようにリボンを見下ろしているハクアに、新菜は微笑んだ。
「そのリボン、お気に入りなんですよ。絶対に返してください」
「……ああ。わかった」
 ハクアはリボンを右手で押さえ、頷いた。

 それから、おもむろに新菜の両手を掴む。
 驚く暇もなく、ハクアは新菜の手をひっくり返し、てのひらを上に向けた。

 新菜のてのひらには潰れた血豆の痕があった。
 剣を振り続けるうちにできたものだ。
 潰れては治ることを繰り返してきたおかげで、心なしか皮膚が厚くなったような気がする。

「これは努力の証です。痛くないですよ。大丈夫です。メイドさんたちが毎日優しく手当してくれましたし、ほとんど治りかけですから」
 ハクアが何か言い出す前に、新菜は両手を叩いてみせた。
 本当にもうほとんど痛くはない。
 最も痛かった時期は既に通り越したからだ。

「努力の甲斐あって、昨日は奇跡的にラオさんから一本取れたんです。ラオさんも褒めてくれたんですよ。でも、有頂天になったのもつかの間で、ラオさんったら『じゃあレベルアップっす』なんて言って、さらに早い攻撃を繰り出してきたんですよ! 本当にあの人、底が見えません! 悔しいです。でも絶対追いついてみせますから!」
 決意とともに拳を握る。

「…………。お前は、本当に……」
 ハクアは悲しそうにも呆れたようにも見える、何とも形容しがたい表情をした。
「そんな顔しなくても大丈夫です。何度も言いますけど、わたしはしたいようにしてるだけなんですから。止めたって無駄ですよ。これはわたしの意志です。ハクア様にどうこう言われる筋合いはありません」
 ハクアの目を見てきっぱりと告げる。

「……わかった。なら、何も言わない」
「はい。それでいいです」
 頷く。本当に新菜はそれで良かった。
 同情も哀れみも要らない。ましてハクアが罪悪感を抱く必要もない。
 これは新菜が好きでやっていることなのだから。
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