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69:侯爵邸へようこそ(8)
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すっかり感心した新菜は、勉強やダンスレッスンに励む合間に、暇さえあれば彼女たちについて回り、効率の良い掃除や洗濯の仕方などを学んできた。
ときには厨房にもお邪魔し、親しくなった料理人から特に美味しいと思った料理のレシピを教えてもらっている。
屋敷内で新菜が自由に動き回れるのも、全ては家主のイグニスが寛容だからこそだ。いつか必ず侯爵夫妻にはお礼をしたい。
「そうですね。ちょっと外を歩いてきます」
「かしこまりました。まだ茶会が終わっておりませんので、中庭には近づかれませんよう」
「はい。行ってきます」
「行ってらっしゃいませ」
メイド二人のお辞儀に見送られて、新菜は部屋を出た。
今日の夕方から侯爵夫妻とハクアは王都へ向かう手筈になっている。
侯爵夫妻が王宮まで足を運んで重ねた交渉の末、ようやく国王が証書を書くことを検討してくれそうな雰囲気になったため、直接ハクアと引き合わせることになったのだ。
出立前に会っておこうと思ったのだが、ハクアは部屋にいなかった。
邸内を散歩中か。それともどこかで昼寝しているのか。
探そうにも侯爵邸は広すぎる。部屋の一つ一つを確認していたらそれだけでタイムオーバーだ。午後のレッスンが始まってしまう。
(庭に行ってみよう。もしかしたらそこにハクアさんもいるかもしれないし)
新菜は玄関を目指して、東翼の二階の廊下を進んだ。
ふと外に目を向ける。
今日の天気は快晴。初夏の青空が広がっていた。
視線を下ろせば中庭が見渡せる。
複数の庭師により丁寧に手入れされた庭では小川が流れ、石造りの橋が架かっている。
小川に隣接して異国風の東屋がある。
アマーリエは今日、五人の貴婦人を招き、そこでお茶会を開いていた。
事前に新菜も参加するかと誘われたが丁重に断った。
一挙手一投足に気を遣い、愛想笑いを浮かべて見え透いたお世辞の応酬をするくらいなら、部屋で引きこもっていたほうが遥かにましである。
(何より、客人として招かれた席で、何か失敗して侯爵家の名にわずかにでも傷をつけるわけにはいかないわ)
アマーリエやイグニスは笑って許してくれるかもしれないが、彼らに迷惑をかけることは、新菜自身のプライドが許さなかった。
ときには厨房にもお邪魔し、親しくなった料理人から特に美味しいと思った料理のレシピを教えてもらっている。
屋敷内で新菜が自由に動き回れるのも、全ては家主のイグニスが寛容だからこそだ。いつか必ず侯爵夫妻にはお礼をしたい。
「そうですね。ちょっと外を歩いてきます」
「かしこまりました。まだ茶会が終わっておりませんので、中庭には近づかれませんよう」
「はい。行ってきます」
「行ってらっしゃいませ」
メイド二人のお辞儀に見送られて、新菜は部屋を出た。
今日の夕方から侯爵夫妻とハクアは王都へ向かう手筈になっている。
侯爵夫妻が王宮まで足を運んで重ねた交渉の末、ようやく国王が証書を書くことを検討してくれそうな雰囲気になったため、直接ハクアと引き合わせることになったのだ。
出立前に会っておこうと思ったのだが、ハクアは部屋にいなかった。
邸内を散歩中か。それともどこかで昼寝しているのか。
探そうにも侯爵邸は広すぎる。部屋の一つ一つを確認していたらそれだけでタイムオーバーだ。午後のレッスンが始まってしまう。
(庭に行ってみよう。もしかしたらそこにハクアさんもいるかもしれないし)
新菜は玄関を目指して、東翼の二階の廊下を進んだ。
ふと外に目を向ける。
今日の天気は快晴。初夏の青空が広がっていた。
視線を下ろせば中庭が見渡せる。
複数の庭師により丁寧に手入れされた庭では小川が流れ、石造りの橋が架かっている。
小川に隣接して異国風の東屋がある。
アマーリエは今日、五人の貴婦人を招き、そこでお茶会を開いていた。
事前に新菜も参加するかと誘われたが丁重に断った。
一挙手一投足に気を遣い、愛想笑いを浮かべて見え透いたお世辞の応酬をするくらいなら、部屋で引きこもっていたほうが遥かにましである。
(何より、客人として招かれた席で、何か失敗して侯爵家の名にわずかにでも傷をつけるわけにはいかないわ)
アマーリエやイグニスは笑って許してくれるかもしれないが、彼らに迷惑をかけることは、新菜自身のプライドが許さなかった。
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