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65:侯爵邸へようこそ(4)
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「迷惑をかけてすまない。どうか、よろしく頼む」
「任せておけ」
イグニスは頼もしく断言し、微笑んだ。
「頼ってくれて嬉しいよ。最善を尽くすと約束しよう」
「大丈夫ですわハクア、何も心配することはありません」
安心させるようにアマーリエが笑う。
「……ありがとう」
「ああ」
イグニスは頷いてから、こちらを向いた。
「ところでニナ、あと三週間で仮面舞踏会だ。この前は興味を示していたが、どうするんだ? 招待客の一人として参加するならドレスや靴を用意してやるぞ?」
「……あー……」
新菜は返答に困って、ハクアの横顔を見つめた。
ハクアはふっと息を吐いてわずかに肩を落とし、イグニスを見た。
「おれも参加していいか?」
「えっ!? 嫌なんじゃないんですか!?」
新菜は仰天した。ハクアは以前「行かない」と即答したはずだが。
「おれが参加しないと気が引けるんだろう」
「……本当にいいんですか?」
新菜は念を押した。
トウカの膝の上で、ミミもじっとハクアを見ている。
「ああ。昨日は迷惑をかけてしまったし、日頃お前はよく働いてくれている。おれが参加することで、お前が喜ぶなら――」
「喜びます喜びます! すっごく嬉しいですよ!!」
新菜は興奮して何度も首を縦に振った。
「あのあの、もしかして踊ってくれたりもするんですか!? 一緒に練習しませんか!?」
何故かイグニスが笑った。
「その必要はないぞニナ。ハクアは踊れる」
「えええ!?」
「人に混じって生きるなら最低限の知識と教養は必要だと思ってな。うちにいる間に一通りの教育は受けさせたんだ。そのときにダンスも――」
「待て、もう何年も前の話だろう。ステップもうろ覚えだぞ」
ハクアが困ったようにイグニスを制した。
「復習する必要があるか。それならニナと一緒に練習を――」
「いいえ、それはいけませんわ、あなた。本命の相手と踊る楽しみは取っておくべきです。それでこそ当日を指折り数えて待つ甲斐があるというもの」
横からアマーリエが口を挟み、悪戯っぽく笑んだ。
「それもそうだな。――懐かしいな」
「あら、何がです?」
「俺も王城で催される舞踏会だけは楽しみだった」
イグニスがアマーリエの頬に触れた。
「君と触れ合える数少ない機会だったからな。踊っている間は国一番の美姫を独占できる。その栄誉に胸を震わせ、この時が永遠に続けばいいと思ったものだ」
アマーリエが頬を朱に染めた。
「私は楽しみ過ぎていつも寝不足でしたわ。どんなドレスを着ればあなたが気に入ってくださるか、悩んで頭を痛めたものです」
熱っぽく見つめ合う二人。
(あ、やばい、これ放っといたらまた二人だけの世界になっちゃうわ)
既にもうなっているような気もするが、早急に帰ってきてもらおう。
「任せておけ」
イグニスは頼もしく断言し、微笑んだ。
「頼ってくれて嬉しいよ。最善を尽くすと約束しよう」
「大丈夫ですわハクア、何も心配することはありません」
安心させるようにアマーリエが笑う。
「……ありがとう」
「ああ」
イグニスは頷いてから、こちらを向いた。
「ところでニナ、あと三週間で仮面舞踏会だ。この前は興味を示していたが、どうするんだ? 招待客の一人として参加するならドレスや靴を用意してやるぞ?」
「……あー……」
新菜は返答に困って、ハクアの横顔を見つめた。
ハクアはふっと息を吐いてわずかに肩を落とし、イグニスを見た。
「おれも参加していいか?」
「えっ!? 嫌なんじゃないんですか!?」
新菜は仰天した。ハクアは以前「行かない」と即答したはずだが。
「おれが参加しないと気が引けるんだろう」
「……本当にいいんですか?」
新菜は念を押した。
トウカの膝の上で、ミミもじっとハクアを見ている。
「ああ。昨日は迷惑をかけてしまったし、日頃お前はよく働いてくれている。おれが参加することで、お前が喜ぶなら――」
「喜びます喜びます! すっごく嬉しいですよ!!」
新菜は興奮して何度も首を縦に振った。
「あのあの、もしかして踊ってくれたりもするんですか!? 一緒に練習しませんか!?」
何故かイグニスが笑った。
「その必要はないぞニナ。ハクアは踊れる」
「えええ!?」
「人に混じって生きるなら最低限の知識と教養は必要だと思ってな。うちにいる間に一通りの教育は受けさせたんだ。そのときにダンスも――」
「待て、もう何年も前の話だろう。ステップもうろ覚えだぞ」
ハクアが困ったようにイグニスを制した。
「復習する必要があるか。それならニナと一緒に練習を――」
「いいえ、それはいけませんわ、あなた。本命の相手と踊る楽しみは取っておくべきです。それでこそ当日を指折り数えて待つ甲斐があるというもの」
横からアマーリエが口を挟み、悪戯っぽく笑んだ。
「それもそうだな。――懐かしいな」
「あら、何がです?」
「俺も王城で催される舞踏会だけは楽しみだった」
イグニスがアマーリエの頬に触れた。
「君と触れ合える数少ない機会だったからな。踊っている間は国一番の美姫を独占できる。その栄誉に胸を震わせ、この時が永遠に続けばいいと思ったものだ」
アマーリエが頬を朱に染めた。
「私は楽しみ過ぎていつも寝不足でしたわ。どんなドレスを着ればあなたが気に入ってくださるか、悩んで頭を痛めたものです」
熱っぽく見つめ合う二人。
(あ、やばい、これ放っといたらまた二人だけの世界になっちゃうわ)
既にもうなっているような気もするが、早急に帰ってきてもらおう。
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