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64:侯爵邸へようこそ(3)

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「同時に冒険者ギルドの長や幹部と連絡を取り、ハクアから手を引くようお願いしておきます。王家から圧力がかかれば冒険者ギルドも慎重になることでしょう」
「……お願いします」
 新菜は深々と頭を下げた。
 認めるのは悔しいが、アマーリエの言葉通り、新菜にできることは何もない。
 相手は個人ではなく組織だ。
 侯爵夫妻の持つ権力や伝手、交渉術に縋るしかなかった。

「ふふ。ニナは本当にハクアのことが好きなんですね。そんなに一生懸命になって、いじらしいこと」
 アマーリエが唇に手を当て、上品に笑った。
「いっ!? いえ、だって、ハクア様はわたしの主ですし!」
 新菜は顔を跳ね上げ、大慌てで両手を振った。
 昨日ラオに言われた言葉が蘇り、頬が熱くなってしまう。

「ハクアは幸せ者だな。こんなに愛されて」
 あろうことか、イグニスまで混ぜっ返してきた。
「だだだから……!」
「ハクアもニナのことは好きだろう」
「ああ」
「えっ」
 新菜は思わずハクアを見た。

「す、好きって……」
 動揺しながら言う。
「? 嫌いな奴を傍に置くわけがないだろう」
 ハクアの回答は至ってシンプルで、ずっこけそうになった。

「ねえハクア、ぼくのことは?」
「もちろん好きだが」
「わーい!」
「ああ、そういう『好き』ですね……」
 無邪気に喜ぶトウカを見ながら、ぽりぽりと頬を掻く。
(勘違いして馬鹿みたいだわ)
 堪えきれなくなったようにイグニスが笑った。

「大丈夫だニナ、可能性は十分ある。何せニナはハクアが初めて自分から傍に置こうとした人間だからな」
「何の慰めですか……もう。いいから話を進めましょう。国王陛下の証書さえあれば大丈夫なんですよね?」
 新菜は顔を赤くしたまま、話題の軌道修正にかかった。

「ああ、たとえこの先冒険者ギルドが何をしてこようと正当防衛が成り立つ」
「だが、仮にも国王が竜のためにわざわざ一筆書いてくれるものか? 見返りになにか要求されるんじゃないのか。納税額を上げろとか、領地を一部返還しろとか、お前たちに不利になるようなことを」
 ハクアは不安そうだ。
「そうですね。その心配はないと思いますが……」
 と、アマーリエは頬に手を当てた。

「以前からお父様はあなたに興味があるようでした。もしかしたらこの目で見たいと言い出されるかもしれません。王宮に参じろと言われたら、どうします?」
「それで身の安全が保障されるなら構わない。とにかくお前たちに不利益が生じないなら、おれにできることはなんでもする」
 ハクアはそう言って、頭を下げた。
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