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61:謎の幽霊

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「ところでニナちゃんってハクアさんのこと好きなんすか?」
「っ!?」
 良い気分で剣を鞘に納めようとしていた新菜は、手元を狂わせ、危うく左手を切るところだった。

「ち、違いますよ! 敬愛してはいますが、それはあくまで、主としてです! 大体、彼は竜ですよ!?」
「愛に種族なんて関係ないっすよ? ニナちゃんがいた世界じゃどうか知らないっすが、こっちの世界じゃ異種族同士の結婚なんてよくあることっす」
「そうだとしても、違いますから!」
「そうなんすか? ニナちゃん、ハクアさんのために一生懸命じゃないっすか。冒険者たちに襲われたときだって、身体張ってハクアさんのこと守ってたっす。俺に剣の稽古をつけてくれって頼んできたのも、ハクアさんのために強くなりたいからっすよね? こりゃー愛だと思ったんすけどねー?」
「ちが……!」
「あーうんうん、わかったっす。ニナちゃん、夜でもわかるくらいに顔真っ赤っすよ」
 酸欠の魚のように口をパクパクさせていると、ラオは笑った。

「~~もう! 違いますからね! わたしはもう休みます、お相手ありがとうございました! 引き続き警護よろしくお願いします!」
「任せるっす! 誰が来てもボッコボコにしてやるっすよ!」
 新菜は膨れっ面のまま、それでも礼儀は忘れることなくお辞儀をし、笑顔のラオに手を振られながら母屋へ向かった。

(……ラオさんったら、急に変なこと言い出すんだから。別に、好きとかじゃないし。ハクアさんに対する気持ちは恋愛感情なんかじゃないわ。好きか嫌いかで言うともちろん好きよ。でも恋じゃない。危なっかしくて放っておけないから守ってあげたいと思うだけで……いわば母性本能ってやつ? うん、きっとそう)
 ぶつぶつ言いながら母屋に入り、廊下を進む。
 目的地は二階の私室。
 汗を掻いたので風呂に入りたい。その前に着替えを取りに行くつもりだった。

 階段の踊り場を通り過ぎたとき、背筋を悪寒が突き抜けた。
 跳ね上げた視線の先――二階の廊下の暗がりに、何かいる。

 白い、ぼんやりとした人型の、霧のような何か。

(……幽霊……?) 
 ぞくりと鳥肌が立った。
 新菜に霊感はなく、生まれてこの方幽霊を見たこともない。
 けれど、絶対、何かがいる。
 固まっていると、白い人型は陽炎のように揺らめいて、すーっと滑るようにこちらへ移動してきた。

(ぎゃー!?)
 反射的に逃げようとしたが、新菜は階段の途中にいたため、上体を引くことしかできない。
 ぎゅっと目を瞑ると、ひんやりとした空気に包まれて。
 耳元で声がした。

《――ハクアを守って。お願い》

 高く儚い、少女の声だった。
 切実な、乞うような声。
 新菜は目を開けたが、そのときにはもう白い影は消えていた。

 何事もなかったように廊下は静まり返り、壁の蝋燭が丸い光を灯すばかり。
「……ハクアを守って?」
 新菜は当惑し、すぐにある可能性に思い当たって愕然とした。

「……あなた、ひょっとして、エルマリアさん?」
 暗闇に問いかけても、返事はなかった。
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