異世界転移したので、メイドしながらご主人様(竜)をお守りします!

星名柚花(恋愛小説大賞参加中)

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60:戦闘訓練

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「あれ、どうしたの?」
「ううん、なんでもないよ? それより、なにその猫?」
「うん、外でね、見つけたの!」
 ご機嫌顔で寄って来たトウカの腕の中には一匹の猫がいた。
 青い目をした、全身真っ黒な猫である。
 何故か猫の毛は全体的に湿っていた。

「凄くいい子なんだよ。ラオと一緒に川の洗濯場に連れて行って洗ってあげたときもおとなしくてねー、嫌がらないし、噛まないし! ねえ、飼ってもいい? ちゃんと世話するから! お願い!」
 トウカは猫を抱いてハクアの前に立ち、懇願した。
「……明日からイグニスのところに行くとわかってるのか?」
 ラオはイグニスから伝言を預かっていた。
 イグニスは冒険者たちにハクアの居場所が割れたことを懸念して、ほとぼりが冷めるまでしばらく侯爵家に避難するように言ってきた。

 明日の昼に迎えの馬車が来るらしいので、午前中に荷造りを済ませる予定だ。
「うん。イグニスが駄目って言ったら諦める……。でも、それまでは一緒にいてもいいでしょう?」
 トウカはうるうると目を潤ませた。狐の耳が垂れている。

「ハクア様」
 新菜も胸の前で手を組み、トウカに加勢した。
 新菜は基本的にもふもふしているものに弱い。
 犬も猫もどっちも好き。
 もちろん、トウカのような狐っ子も大歓迎である。

「……お前もか……わかった。好きにしろ」
「やったー!!」
 トウカが猫に頬ずりする。
「わたしも触らせて!」
「はい」
 トウカに猫を譲ってもらい、抱き上げて頭を撫でると、猫は「にゃあ」と一声鳴いて新菜の手に頭を擦り寄せた。
「可愛いぃ!」
 新菜はたちまち猫の虜になった。



 それから数時間後。
 新菜は普段ハクアに文字の読み書きを習っている時間を剣の訓練に当て、庭でラオと剣を打ち合わせていた。
 ラオは強かった。
 新菜の身体能力は常人離れしているはずなのに、ラオもまた魔法で強化しているらしく、余裕で新菜の剣を弾き、あるいはかわし、合間合間でアドバイスをしてくる。
「踏み込みが甘いっす。一度剣を振ったなら最後まで振り切るっす。脇ががら空きっすよ?」
「はい!」
 新菜はラオの剣を弾くことに必死で、返事をするのもやっとだった。

「うむ。まあこんなもんっすかね。ニナちゃん筋が良いっすよ。ちゃんと訓練すればかなり良いとこまで行けそうっす。銀は取れそうっすね」
 数分に渡る激しい剣戟の末、ラオは剣を下ろした。

「本当、ですか?」
 新菜は肩で息をしながら言った。

「本当っす。てか、冒険者にならないっすか? 宝の持ち腐れっすよ?」
 疲弊しきっている新菜に対し、ラオの呼吸は全く乱れていなかった。
 彼は『銀の双剣持ち』とはいえ、金ではない。それなのにこの強さ。
(金の徽章持ちってとんだ化け物集団なのね……世の中広いわ)
 どんな分野でも、上には上がいるものらしい。

「はい。わたしは、家事も、戦闘も……できる、万能メイドを、目指す、つもりなので」
 荒い呼吸の狭間で言う。
「あはは。トウカが言ってたバトルメイドってやつっすか。斬新っすね。その発想、面白いっす。確かに、ただのメイドじゃハクアさんは守れないっすもんね。わかったっす、俺もできる限り応援するっすよ」
「ありがとうございます」
 朗らかなラオの笑顔に、新菜も笑みを返した。
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