60 / 129
60:戦闘訓練
しおりを挟む
「あれ、どうしたの?」
「ううん、なんでもないよ? それより、なにその猫?」
「うん、外でね、見つけたの!」
ご機嫌顔で寄って来たトウカの腕の中には一匹の猫がいた。
青い目をした、全身真っ黒な猫である。
何故か猫の毛は全体的に湿っていた。
「凄くいい子なんだよ。ラオと一緒に川の洗濯場に連れて行って洗ってあげたときもおとなしくてねー、嫌がらないし、噛まないし! ねえ、飼ってもいい? ちゃんと世話するから! お願い!」
トウカは猫を抱いてハクアの前に立ち、懇願した。
「……明日からイグニスのところに行くとわかってるのか?」
ラオはイグニスから伝言を預かっていた。
イグニスは冒険者たちにハクアの居場所が割れたことを懸念して、ほとぼりが冷めるまでしばらく侯爵家に避難するように言ってきた。
明日の昼に迎えの馬車が来るらしいので、午前中に荷造りを済ませる予定だ。
「うん。イグニスが駄目って言ったら諦める……。でも、それまでは一緒にいてもいいでしょう?」
トウカはうるうると目を潤ませた。狐の耳が垂れている。
「ハクア様」
新菜も胸の前で手を組み、トウカに加勢した。
新菜は基本的にもふもふしているものに弱い。
犬も猫もどっちも好き。
もちろん、トウカのような狐っ子も大歓迎である。
「……お前もか……わかった。好きにしろ」
「やったー!!」
トウカが猫に頬ずりする。
「わたしも触らせて!」
「はい」
トウカに猫を譲ってもらい、抱き上げて頭を撫でると、猫は「にゃあ」と一声鳴いて新菜の手に頭を擦り寄せた。
「可愛いぃ!」
新菜はたちまち猫の虜になった。
それから数時間後。
新菜は普段ハクアに文字の読み書きを習っている時間を剣の訓練に当て、庭でラオと剣を打ち合わせていた。
ラオは強かった。
新菜の身体能力は常人離れしているはずなのに、ラオもまた魔法で強化しているらしく、余裕で新菜の剣を弾き、あるいはかわし、合間合間でアドバイスをしてくる。
「踏み込みが甘いっす。一度剣を振ったなら最後まで振り切るっす。脇ががら空きっすよ?」
「はい!」
新菜はラオの剣を弾くことに必死で、返事をするのもやっとだった。
「うむ。まあこんなもんっすかね。ニナちゃん筋が良いっすよ。ちゃんと訓練すればかなり良いとこまで行けそうっす。銀は取れそうっすね」
数分に渡る激しい剣戟の末、ラオは剣を下ろした。
「本当、ですか?」
新菜は肩で息をしながら言った。
「本当っす。てか、冒険者にならないっすか? 宝の持ち腐れっすよ?」
疲弊しきっている新菜に対し、ラオの呼吸は全く乱れていなかった。
彼は『銀の双剣持ち』とはいえ、金ではない。それなのにこの強さ。
(金の徽章持ちってとんだ化け物集団なのね……世の中広いわ)
どんな分野でも、上には上がいるものらしい。
「はい。わたしは、家事も、戦闘も……できる、万能メイドを、目指す、つもりなので」
荒い呼吸の狭間で言う。
「あはは。トウカが言ってたバトルメイドってやつっすか。斬新っすね。その発想、面白いっす。確かに、ただのメイドじゃハクアさんは守れないっすもんね。わかったっす、俺もできる限り応援するっすよ」
「ありがとうございます」
朗らかなラオの笑顔に、新菜も笑みを返した。
「ううん、なんでもないよ? それより、なにその猫?」
「うん、外でね、見つけたの!」
ご機嫌顔で寄って来たトウカの腕の中には一匹の猫がいた。
青い目をした、全身真っ黒な猫である。
何故か猫の毛は全体的に湿っていた。
「凄くいい子なんだよ。ラオと一緒に川の洗濯場に連れて行って洗ってあげたときもおとなしくてねー、嫌がらないし、噛まないし! ねえ、飼ってもいい? ちゃんと世話するから! お願い!」
トウカは猫を抱いてハクアの前に立ち、懇願した。
「……明日からイグニスのところに行くとわかってるのか?」
ラオはイグニスから伝言を預かっていた。
イグニスは冒険者たちにハクアの居場所が割れたことを懸念して、ほとぼりが冷めるまでしばらく侯爵家に避難するように言ってきた。
明日の昼に迎えの馬車が来るらしいので、午前中に荷造りを済ませる予定だ。
「うん。イグニスが駄目って言ったら諦める……。でも、それまでは一緒にいてもいいでしょう?」
トウカはうるうると目を潤ませた。狐の耳が垂れている。
「ハクア様」
新菜も胸の前で手を組み、トウカに加勢した。
新菜は基本的にもふもふしているものに弱い。
犬も猫もどっちも好き。
もちろん、トウカのような狐っ子も大歓迎である。
「……お前もか……わかった。好きにしろ」
「やったー!!」
トウカが猫に頬ずりする。
「わたしも触らせて!」
「はい」
トウカに猫を譲ってもらい、抱き上げて頭を撫でると、猫は「にゃあ」と一声鳴いて新菜の手に頭を擦り寄せた。
「可愛いぃ!」
新菜はたちまち猫の虜になった。
それから数時間後。
新菜は普段ハクアに文字の読み書きを習っている時間を剣の訓練に当て、庭でラオと剣を打ち合わせていた。
ラオは強かった。
新菜の身体能力は常人離れしているはずなのに、ラオもまた魔法で強化しているらしく、余裕で新菜の剣を弾き、あるいはかわし、合間合間でアドバイスをしてくる。
「踏み込みが甘いっす。一度剣を振ったなら最後まで振り切るっす。脇ががら空きっすよ?」
「はい!」
新菜はラオの剣を弾くことに必死で、返事をするのもやっとだった。
「うむ。まあこんなもんっすかね。ニナちゃん筋が良いっすよ。ちゃんと訓練すればかなり良いとこまで行けそうっす。銀は取れそうっすね」
数分に渡る激しい剣戟の末、ラオは剣を下ろした。
「本当、ですか?」
新菜は肩で息をしながら言った。
「本当っす。てか、冒険者にならないっすか? 宝の持ち腐れっすよ?」
疲弊しきっている新菜に対し、ラオの呼吸は全く乱れていなかった。
彼は『銀の双剣持ち』とはいえ、金ではない。それなのにこの強さ。
(金の徽章持ちってとんだ化け物集団なのね……世の中広いわ)
どんな分野でも、上には上がいるものらしい。
「はい。わたしは、家事も、戦闘も……できる、万能メイドを、目指す、つもりなので」
荒い呼吸の狭間で言う。
「あはは。トウカが言ってたバトルメイドってやつっすか。斬新っすね。その発想、面白いっす。確かに、ただのメイドじゃハクアさんは守れないっすもんね。わかったっす、俺もできる限り応援するっすよ」
「ありがとうございます」
朗らかなラオの笑顔に、新菜も笑みを返した。
0
お気に入りに追加
51
あなたにおすすめの小説
【完結済み】ブレイメン公国の気球乗り。異世界転移した俺は特殊スキル気球操縦士を使って優しい赤毛の女の子と一緒に異世界経済を無双する。
屠龍
ファンタジー
山脈の国に降り立った気球乗りと心優しい竜騎士王女の純愛ものです。
「ドラゴンを解剖させてください」
「お前は何を言っているんだ」
日本の大学を卒業して奨学金返済の為に観光施設で気球乗りとして働いていた水無瀬隼人(みなせはやと)が謎の風に乗って飛ばされたのは異世界にある山脈の国ブレイメン公国。隼人が出会ったのは貧しくも誇り高く懸命に生きるブレイメン公国の人々でした。しかしこのブレイメン公国険しい山国なので地下資源は豊富だけど運ぶ手段がない。「俺にまかせろ!!」意気込んで気球を利用して自然環境を克服していく隼人。この人たちの為に知識チートで出来る事を探すうちに様々な改革を提案していきます。「銀山経営を任されたらやっぱ灰吹き法だよな」「文字書きが出来ない人が殆どだから学校作らなきゃ」日本の大学で学んだ日本の知識を使って大学を設立し教育の基礎と教師を量産する隼人と、ブレイメン公国の為に人生の全てを捧げた公女クリスと愛し合う関係になります。強くて健気な美しい竜騎士クリス公女と気球をきっかけにした純愛恋愛物語です。
。
第17回ファンタジー小説大賞参加作品です。面白いと思われたらなにとぞ投票をお願いいたします。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
亡霊剣士の肉体強奪リベンジ!~倒した敵の身体を乗っ取って、最強へと到る物語。
円城寺正市
ファンタジー
勇者が行方不明になって数年。
魔物が勢力圏を拡大し、滅亡の危機に瀕する国、ソルブルグ王国。
洞窟の中で目覚めた主人公は、自分が亡霊になっていることに気が付いた。
身動きもとれず、記憶も無い。
ある日、身動きできない彼の前に、ゴブリンの群れに追いかけられてエルフの少女が転がり込んできた。
亡霊を見つけたエルフの少女ミーシャは、死体に乗り移る方法を教え、身体を得た彼は、圧倒的な剣技を披露して、ゴブリンの群れを撃退した。
そして、「旅の目的は言えない」というミーシャに同行することになった亡霊は、次々に倒した敵の身体に乗り換えながら、復讐すべき相手へと辿り着く。
※この作品は「小説家になろう」からの転載です。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
ローグ・ナイト ~復讐者の研究記録~
mimiaizu
ファンタジー
迷宮に迷い込んでしまった少年がいた。憎しみが芽生え、復讐者へと豹変した少年は、迷宮を攻略したことで『前世』を手に入れる。それは少年をさらに変えるものだった。迷宮から脱出した少年は、【魔法】が差別と偏見を引き起こす世界で、復讐と大きな『謎』に挑むダークファンタジー。※小説家になろう様・カクヨム様でも投稿を始めました。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
聖女なんかじゃありません!~異世界で介護始めたらなぜか伯爵様に愛でられてます~
トモモト ヨシユキ
ファンタジー
川で溺れていた猫を助けようとして飛び込屋敷に連れていかれる。それから私は、魔物と戦い手足を失った寝たきりの伯爵様の世話人になることに。気難しい伯爵様に手を焼きつつもQOLを上げるために努力する私。
そんな私に伯爵様の主治医がプロポーズしてきたりと、突然のモテ期が到来?
エブリスタ、小説家になろうにも掲載しています。
転生ジーニアス ~最強の天才は歴史を変えられるか~
普門院 ひかる
ファンタジー
ここ神聖帝国に地球から異世界転生してきた天才チートな男がいた。
彼の名はフリードリヒ・エルデ・フォン・ツェーリンゲン。
その前世からしてケンブリッジ大学博士課程主席卒業の天才量子力学者で、無差別級格闘技をも得意とするチートな男だった彼は、転生後も持ち前のチート能力を生かし、剣術などの武術、超能力や魔法を極めると、人外を含む娘たちとハーレム冒険パーティを作り、はては軍人となり成り上がっていく。
そして歴史にも干渉し得る立場となった彼は世界をどうするのか…
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
異世界成り上がり物語~転生したけど男?!どう言う事!?~
繭
ファンタジー
高梨洋子(25)は帰り道で車に撥ねられた瞬間、意識は一瞬で別の場所へ…。
見覚えの無い部屋で目が覚め「アレク?!気付いたのか!?」との声に
え?ちょっと待て…さっきまで日本に居たのに…。
確か「死んだ」筈・・・アレクって誰!?
ズキン・・・と頭に痛みが走ると現在と過去の記憶が一気に流れ込み・・・
気付けば異世界のイケメンに転生した彼女。
誰も知らない・・・いや彼の母しか知らない秘密が有った!?
女性の記憶に翻弄されながらも成り上がって行く男性の話
保険でR15
タイトル変更の可能性あり
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います
町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。
老女召喚〜聖女はまさかの80歳?!〜城を追い出されちゃったけど、何か若返ってるし、元気に異世界で生き抜きます!〜
二階堂吉乃
ファンタジー
瘴気に脅かされる王国があった。それを祓うことが出来るのは異世界人の乙女だけ。王国の幹部は伝説の『聖女召喚』の儀を行う。だが現れたのは1人の老婆だった。「召喚は失敗だ!」聖女を娶るつもりだった王子は激怒した。そこら辺の平民だと思われた老女は金貨1枚を与えられると、城から追い出されてしまう。実はこの老婆こそが召喚された女性だった。
白石きよ子・80歳。寝ていた布団の中から異世界に連れてこられてしまった。始めは「ドッキリじゃないかしら」と疑っていた。頼れる知り合いも家族もいない。持病の関節痛と高血圧の薬もない。しかし生来の逞しさで異世界で生き抜いていく。
後日、召喚が成功していたと分かる。王や重臣たちは慌てて老女の行方を探し始めるが、一向に見つからない。それもそのはず、きよ子はどんどん若返っていた。行方不明の老聖女を探す副団長は、黒髪黒目の不思議な美女と出会うが…。
人の名前が何故か映画スターの名になっちゃう天然系若返り聖女の冒険。全14話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる