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59:ただ、あなたに伝えたいこと(5)

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(え)
 まさか彼のほうから触れられるとは思わず、新菜は動揺した。
 細く長い指が、新菜の顔の輪郭をなぞる。

「痛かっただろう。……すまなかった」
 ハクアは申し訳なさそうに言ったが、新菜は笑った。
 そもそもハクアが謝ることではない。悪いのは冒険者たちである。
「あんなの、へっちゃらですよ。それに、今度は殴られる前に殴り飛ばしますから、ご心配なく」
 言いながら、ハクアの瞳を見つめる。
 ピンク、赤、水色、青、橙、緑、紫――人ならざるハクアの瞳は様々な色が混ざり合って、本当に綺麗だ。見ていて飽きない。

「逞しいな。お前は、本当に」
 ハクアが笑う。
 でも、その笑みはどこか悲しげだ。
 一方的に守られることに負い目を抱いているのだろう。

(嫌だな)
 胸がつきんと痛む。
 こんな悲しそうな笑顔は見たくない。
 笑うなら、心から、晴れやかに笑っていてほしい。
「本当にハクア様が気に病む必要はないんですよ? ハクア様を守ると決めたのはわたしの意思です。ただの我儘なんです。我儘だからハクア様の都合も気持ちも知ったことではないんです。わたしはただやりたいようにするだけ。全部わたしの勝手なんですよ。だから――」
「わかった。もういい」
 言葉を尽くそうとした新菜を、ハクアは首を振って制した。
 それ以上は何も言おうとしない。
 ただ、ハクアの手は、変わらずに新菜の頬に添えられたままだ。

(……って。なんだこの状況。あれ? なんでわたしたち見つめ合ってるの?)
 正体は竜とはいえ、ハクアは美しい青年の姿を取っている。
 抜けるように白い肌、銀色の髪。
 若くしなやかな肢体、完璧なまでに整った容姿。
 まさに月の化身のようだ。

 彼の部屋着の胸元が軽くはだけられ、素肌が覗いていることを妙に意識し、心拍数が上がっていく。
 頬が熱い。
 ハクアが唇を開き、新菜が吸い寄せられるようにその唇を見つめた、そのとき。

「ただいまー!」

 トウカの声がして、居間の扉が豪快に開いた。
 新菜は大きく後ずさり、ハクアも椅子ごと思い切り身体を引いて壁にぶつかった。多分、痛かったはず。
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