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55:ただ、あなたに伝えたいこと(1)

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 ラオと皆で囲んだ夕食の片づけを終え、厨房から居間に戻ると、ハクアだけがそこにいた。
 テーブルの上の燭台が、白皙の美貌を橙色に染めている。

「トウカとラオさんは?」
 尋ねると、揺れる蝋燭を見ていたハクアは顔を上げた。
「席を外してもらった。今頃は屋根の上で天体観測でもしてるだろう」
「……そうですか」
 わざわざ二人に席を外させた理由は、新菜と二人きりで話したいことがあるからだろう。
 予想はついた。ハクアは怒っている。空気がピリピリしていた。

「……すみませんでした、ハクア様」
 新菜は近づき、立ったまま頭を下げた。
「何を謝る?」
「……戦う力があるのに、戦わなかったから、です。あのときのわたしはどうかしていました」
 悔しさと情けなさがこみ上げ、俯いたまま頬の内側の肉を噛み潰す。

 冷静になってみれば、いくら冒険者たちが武装していたとはいえ、恐れる必要は全くなかった。
 トウカと契約した後も、新菜は慢心せず、毎日地道にトレーニングを積んでいた。
 ときにはイグニスに頼まれた用事を済ませるために森へと向かうハクアの護衛役を買って出て、魔物を倒したりもしていた。

 普段通りの実力を出せれば冒険者たちに負ける可能性は皆無。
 魔法で吹き飛ばすなり電撃を浴びせるなりして、余裕で撃退できた。
 それなのに、新菜はパニックになって、攻撃ではなく守りの態勢に入った。
 蛇に睨まれた蛙と同じ、完全に弱者の思考だ。

(……守ると誓ったのに。なんて情けないの)
 信頼を裏切ってしまったと思い、新菜はトウカに謝り倒したが、トウカは「ううん、身体を張ってでもハクアを守ろうとしたニナは格好良かったよ」と笑い、「ニナのほうが大変だったでしょう? 大丈夫?」と心配までしてくれた。不覚にも泣きそうになり、新菜はトウカを抱きしめて何度も頭を撫でた。

 居間の隅には細身の剣が立てかけられている。
 ラオが昼間の冒険者たちから慰謝料として巻き上げた金で買った新菜の剣だ。
 有り金の全てをもらい、真摯な謝罪を受け、ハクアからは手を引くと約束してもらった以上、冒険者たちに対していまさら何を言うつもりもない。
 新菜が引きずっているのは、自分自身の言動、間違った対処である。

「ハクア様とトウカはわたしが守る、なんて大口を叩いておきながらあの有様。全く情けない限りです。これではバトルメイド失格です。ハクア様が怒られるのも無理はありません――」
「違う。おれが怒っているのはそこじゃない」
 吐き捨てるように言われ、驚いて顔を上げる。
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