異世界転移したので、メイドしながらご主人様(竜)をお守りします!

星名柚花

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54:守りたいと思っただけなんです(5)

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「素性は教えてやったっすよ? さっさとニナちゃんから手を離せっす」
「うるせえ! 《月光宝珠》は最高級の宝石なんだよ! 売ればどれだけの値がつくと思ってんだ!? 一千万だぞ一千万!」
「逃がしてたまるか、そいつは俺たちの獲物だ! 邪魔するなら容赦しねえぞ!」
 若者たちは口角から唾を飛ばし、武器を持って構えた。
 ラオの傍でトウカが身を竦めるのを見ながら、意識を鋭く尖らせる。

(――電撃を喰らわせて、その一撃で戦闘不能にする)
 そう決めて、呪文を唱えるべく息を吸う。が。 

 新菜が口を開くよりも早く、一陣の風が奔った。

 ふわりと風が頬を撫でた直後、三人の若者たちは地面に倒れ伏したではないか。

「……え?」
 新菜は目をぱちくりさせた。
 右手にいたはずのラオが、左手へと大きく移動している。

「はい、いっちょあがりっす」
 ラオは軽い口調で言って、剣を腰の鞘に納めた。
 速すぎて何がなんだかよくわからなかったが、ラオが三人を倒したらしい。
 誰も傷を負ってないところを見ると、峰打ちか。
 新菜は舌を巻いた。とんでもない腕前だ。

「……ラオさんって、強かったんですね……」
「酷いっす。一応これでも、一個部隊の隊長なんすよ?」
 ラオは不満げに唇を尖らせた。
 思わず吹き出してしまう。
「すみません」
「……なあ……もういいだろう?」
 事態の収束を感じ取ったらしく、新菜の腕の中に閉じ込められているハクアが声をあげた。

「あっ! すみません!!」
 手を離すと、ハクアは息を吐いた。
 その頬がほんの少し赤かったため、新菜は心配になった。
「大丈夫ですかハクア様? 酸素不足になりました?」
「いや……」
 ハクアは気まずそうに目を逸らした。
 こんな反応は初めてだ。

「本当にごめんなさい、苦しかったですよね? わたしったらとにかくハクア様を守らなくちゃってパニックになって、思いっきり抱きしめてしまって……」
「うひょー。ハクアさん役得っすねえ」
「え。何がです?」
 新菜は本当にわからなかった。

「何がって。だから、ニナちゃん、ハクアさんのことずーっと抱きしめてたんすよね?」
「………………」
「羨ましいっす」
 ラオがしみじみと言い、二回頷く。

「………………………………!!!」
 自分がいままで何をしていたのかを思い知って、新菜の顔は茹蛸のように赤くなった。
「すすすすすみませんでしたハクア様!!」
「いや、おれよりお前が……。……もういい。この話は止めよう」
 ハクアは顔を背けた。
 さらに頬が赤くなっている。

「そそそそうですね! 止めましょう! いまの記憶はさっくり消してくださいね! わたしも忘れますから!! ええ! もう忘れました!!」
「いやあ、忘れるなんて無理っすよ。俺だったら永久保存するっすよ。思い出してはニヤけるっすよ。ノンストップニヤニヤっすよ」
「ラオさんは黙っててくださいっ!!」
 新菜は真っ赤になって怒鳴った。
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