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53:守りたいと思っただけなんです(4)

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「離せ!」
「嫌ですっ!!」
 苦痛が伝わったらしく、ハクアが新菜を突き放そうともがくが、新菜は腕に力を込めた。
 トウカとの契約のおかげで、新菜のほうがハクアより腕力がある。新菜が全力を出せばハクアは身動きが取れない。
(たとえ何をされようと、絶対にハクアさんは渡さない!!)

「ニナに酷いことするな!!」
 トウカが必死の形相で若者Cの腰に組み付いた。
「ぎゃっ!? こいつ噛んだぞ、うぜーな!!」
 突き飛ばされ、トウカが地面に倒れ込む。 
「トウカに何するのよ!? いい加減に――」

「しろっつってんすよ!! 何してんすかあんたらは!!」

 突然、第三者の怒号が降ってきて、全員の耳朶を打った。
「…………は?」
 若者Aが間の抜けた声を上げ、皆が声の主を探して空を仰ぐ。
「とうっ! す!」
 母屋の屋根から飛び降りたのは、腰に剣を佩いたラオだった。
「正義の味方参上っす!」
 ラオは片腕をまっすぐに伸ばし、もう一方の腕を曲げ、謎のポーズを取った。

「…………………………?」
 予期せぬ闖入者に、皆がぽかんとしている。
「大丈夫っすかトウカ。すまないっす。まさかこんなことになってるとは。知ってたら呑気に屋根に上ったりなんかしなかったっすよ? 屋根に上った後で言い争う声が聞こえたから、大急ぎで来たっす。全速力だったっす。信じてほしいっす」
 ラオは尻餅をついていたトウカの手を掴んで立ち上がらせ、服の泥を払った。

「い、いや、信じるけど……そもそもなんで屋根に上ってたの?」
 トウカが困惑顔で聞いた。
「前からこの家の屋根に上ってみたいと思ってたんすよ。なんか上りたくなる形じゃないっすか」
「…………?」
 新菜と同じく全く共感できなかったらしく、トウカは眉を八の字にした。
「ええと……なんでここにいるの?」

「イグニス様に言われて警護に来たっす。冒険者に《月の使者》の目撃情報が漏れたとかで、ハクアさんたちヤバそうだからよろしくって頼まれたんすよ。誰が来ても良かったっすが、全員一致で行けって言われたっす。第二部隊隊長からは『たまには静かな夜を過ごしたい』って言われたっす。ちょっと意味わかんないっすよねえ?」
(それはラオさんがうるさいからでは……?)

「まあそれはそうと、何してんすかあんたら。寄ってたかって女の子虐めるとか正気っすか? 男の風上にも置けないクズっすね。冒険者の面汚しっす。こんなのが同じ銀の徽章持ちなんて信じたくないっすよ。冒険者ギルドも堕ちたもんっす。嘆かわしい。その徽章番号、後で控えさせてもらうっすよ。きっちり本部にクレーム入れとくっす」
「すっすすっすうるせえよ! なんなんだお前!?」
 若者Bが激高し、右足で強く地面を蹴った。

「オルハーレン侯爵に雇われたギルドの傭兵っす。名前はラオっす」
 ラオは銀の徽章を摘まんだ。
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