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52:守りたいと思っただけなんです(3)

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「勝手なことを言わないでください! なんて無礼な、これ以上話をするつもりはありません! 迷惑です、帰ってください!」
「……うるさいなぁ……どうしたの?」
 声に振り返れば、トウカが目を擦りながら起き上がっていた。
 ハクアも上体を起こそうとしている。
 どっと汗が噴き出し、肝が冷えた。

(目を見られたらダメ――!!)
 隠さなければ。
 新菜はとっさにハクアの頭を胸に抱きかかえ、背中を丸めた。
 中途半端に上体を浮かせた格好のまま、ハクアが新菜の腕の中で硬直する。

「目を閉じていてください! いま目を開けたら死にますよ!? 動かないで! このままです!」
「何を――」
「いいからおとなしくしててください!!」
 怒鳴るように言うと、ハクアは沈黙し、身動きを止めた。

「ねえニナ、どういうことなの? この人たちだれ? 何があったの?」
 トウカがハンモックから下り、不安げに三人を見た。

「《月の使者》を探しに来た冒険者よ」
 口早に言うと、トウカは青ざめた。
「それじゃ――」
「黙ってて。わたしがなんとかするから」
 トウカが決定的な情報を与える前に、新菜はその口を塞いだ。

「なあメイドさん、何してんの? なんでそいつ庇ってんの?」
 冒険者たちの口調が変わった。
 ハクアを抱きしめたままそちらを見れば、彼らは一様に下卑た笑みを浮かべている。
 新菜の言動が彼らの疑念を確信へと変えてしまったらしい。

「起きたんだろ? そいつの目を見せてくれよ。見せるだけでいいからさ」
「あなたたちに従う義理は――きゃ!」
 横から突き飛ばされ、新菜はたたらを踏んだ。
 急いで体勢を整え、ハクアの前に戻ったが、既に手遅れだった。

「見たか?」
 若者Aが仲間に問う。既に好青年の仮面はなく、その顔は欲望に歪んでいた。
「ああ、当たりだ!」
「やったなあ、一生遊んで暮らせるぜ!」

「……ニナ、もういい」
 ハクアが小さなため息をつき、ハンモックから下りて立ち上がった。
「トウカと下がってろ。お前の役目はここまでだ。お前は充分よくやってくれた――すまなかったな」
「……っ」
 ぽん、と肩を叩かれて、新菜は泣きたくなった。 

「なんでハクア様が謝るんですか! これで終わりみたいなこと言わないでください、ハクア様はわたしが守るんです!!」
 新菜はハクアの腕を掴んで強引に身を屈めさせ、再び抱きしめた。
「馬鹿――」
「どけよ。邪魔だ、殴るぞ」
 ハクアの焦りに満ちた声を遮り、若者Aが握りこぶしを見せつける。目が本気だった。
「嫌よ! 絶対にどかないっ……!」
 頭皮に痛みが走った。
 若者Bが野菜でも引っこ抜くように、乱暴に髪を掴んで引っ張ったのだ。
 続いて若者Cに背中を蹴られ、息が詰まる。
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