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47:とある執事の憂鬱(2)
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(万が一|《月光宝珠》が宝石ギルドに持ち込まれたという連絡があったとしても、とてもではないが買える財政状況ではないと気づいておられないのだろうな)
ミレーヌは外見こそ人形のように典雅で愛らしいが、その性格は卑しく残忍だ。
メイドが少しでも強く髪を梳けば痛いと騒ぐ。
紅茶が自分好みの温度ではないと当たり散らす。
極めつけに、掃除中にうっかり宝石を床に落としてしまったメイドの顔を鞭で打ち、身一つで追い出した。
その一件があってからというもの、伯爵家で働くメイドや使用人たちの表情からは笑顔が消えた。
主人の前では機嫌を損ねないよう、必死で愛想笑いを浮かべているが、引きつったその笑顔は見ていて痛々しいばかり。
もはや頼りになるのは王都で騎士として務めているアルベルトの弟、デュークだけなのだが、アルベルトは代替わりをそう易々と認めはしないだろう。
窓の外、侯爵邸の門の前では屈強な傭兵が立っている。
彼らだけではなく、アルベルトはこの屋敷に多くの傭兵を住まわせていた。
アルベルトは夜な夜な賭博で彼らと遊び、戯れに剣を打ち合わせているが、彼らの実力は確かだ。
冒険者ギルドの徽章は銅、銀、金とランクによって三段階あるが、この屋敷の傭兵の徽章はほとんどが銀以上。
徽章はそれぞれ図案が異なる。
銅は薔薇、銀は交差する剣、金は火を噴く竜が下地として薄く彫ってある。
実績に応じて少しずつその図案が冒険者ギルド専属彫金師の手によりなぞられていき、線が光り輝いていくのだが、この屋敷の傭兵には最終形態である竜が彫られた者がいた。
金の徽章に竜が彫られた者、通称「金の竜持ち」は大陸でも七人しかいない一流冒険者の証。
よほどの命知らずでもない限り、どんな悪党でも徽章を見ただけで逃げる。
彼らに守られたこの伯爵邸は、難攻不落の要塞だ。
たとえ重税に苦しむ民が暴徒と化しても、生半可な暴力では決して落とされまい。
クロムの苦悩も知らず、今日も空は青く、庭に咲く花は美しい。
もう一度クロムがため息をついたとき、部屋の扉を叩く音がして、返事も待たずに扉が開いた。
「ねえねえクロム、聞いた? オルハーレン侯爵家の噂!」
ミレーヌは弾む声で言いながら、遠慮なく入って来て机に両手をついた。
螺旋状に巻いた金髪。夏の海を思わせる青い瞳。
華奢な身体を包むのは明るいオレンジ色のドレス。
胸元の緑のリボンの中央では大粒のルビーが光っていた。
耳にも揃いの涙滴型のルビーが垂れ下がっている。
労働を知らない、白く細い指にはそれぞれ宝石のついた指輪が煌いていた。
手首にも金の細い三連ブレスレットを嵌めている。
クロムが知らない装身具だ。
また無駄遣いしたな、とますます気が重くなった。
ミレーヌは外見こそ人形のように典雅で愛らしいが、その性格は卑しく残忍だ。
メイドが少しでも強く髪を梳けば痛いと騒ぐ。
紅茶が自分好みの温度ではないと当たり散らす。
極めつけに、掃除中にうっかり宝石を床に落としてしまったメイドの顔を鞭で打ち、身一つで追い出した。
その一件があってからというもの、伯爵家で働くメイドや使用人たちの表情からは笑顔が消えた。
主人の前では機嫌を損ねないよう、必死で愛想笑いを浮かべているが、引きつったその笑顔は見ていて痛々しいばかり。
もはや頼りになるのは王都で騎士として務めているアルベルトの弟、デュークだけなのだが、アルベルトは代替わりをそう易々と認めはしないだろう。
窓の外、侯爵邸の門の前では屈強な傭兵が立っている。
彼らだけではなく、アルベルトはこの屋敷に多くの傭兵を住まわせていた。
アルベルトは夜な夜な賭博で彼らと遊び、戯れに剣を打ち合わせているが、彼らの実力は確かだ。
冒険者ギルドの徽章は銅、銀、金とランクによって三段階あるが、この屋敷の傭兵の徽章はほとんどが銀以上。
徽章はそれぞれ図案が異なる。
銅は薔薇、銀は交差する剣、金は火を噴く竜が下地として薄く彫ってある。
実績に応じて少しずつその図案が冒険者ギルド専属彫金師の手によりなぞられていき、線が光り輝いていくのだが、この屋敷の傭兵には最終形態である竜が彫られた者がいた。
金の徽章に竜が彫られた者、通称「金の竜持ち」は大陸でも七人しかいない一流冒険者の証。
よほどの命知らずでもない限り、どんな悪党でも徽章を見ただけで逃げる。
彼らに守られたこの伯爵邸は、難攻不落の要塞だ。
たとえ重税に苦しむ民が暴徒と化しても、生半可な暴力では決して落とされまい。
クロムの苦悩も知らず、今日も空は青く、庭に咲く花は美しい。
もう一度クロムがため息をついたとき、部屋の扉を叩く音がして、返事も待たずに扉が開いた。
「ねえねえクロム、聞いた? オルハーレン侯爵家の噂!」
ミレーヌは弾む声で言いながら、遠慮なく入って来て机に両手をついた。
螺旋状に巻いた金髪。夏の海を思わせる青い瞳。
華奢な身体を包むのは明るいオレンジ色のドレス。
胸元の緑のリボンの中央では大粒のルビーが光っていた。
耳にも揃いの涙滴型のルビーが垂れ下がっている。
労働を知らない、白く細い指にはそれぞれ宝石のついた指輪が煌いていた。
手首にも金の細い三連ブレスレットを嵌めている。
クロムが知らない装身具だ。
また無駄遣いしたな、とますます気が重くなった。
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