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37:契約ともふもふ堪能タイム(1)

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 強くなろうと決めたものの、手っ取り早く劇的に強くなる都合の良い方法などあるわけもない。

 そんなわけで新菜は筋トレをすることにした。
 正式にこの家のメイドとして認められた昨日から、腹筋と背筋と腕立て伏せを朝晩二十回ずつ、加えて丘を五周走ることを日課にしている。

「じゅーはち、じゅーきゅう、……二十!」
 運動しやすいような服に着替え、居間で腕立て伏せのノルマをこなした新菜はべちゃりと敷布の上に突っ伏した。
 私室ではなく居間で筋トレを行う理由は、さぼらないように見張ってもらうためだ。何事も継続が大事なのである。

「お疲れ様……というか、よくやるな。そんなことしなくていいのに」
 筋トレの様子を見ていたハクアが言った。
 ハクアとトウカが座るテーブルには小皿があり、新菜が剥いた果物が乗っている。ミストベリーという果物で、赤い果肉と甘酸っぱい味が特徴。

「しなくちゃいけないんですよ。ハクア様は魔法が使えないし、竜のお約束ともいえる炎も吐けない。竜の形態になれば爪と牙はあるでしょうが、遠距離から魔法を放たれたら終わりじゃないですか。性格的にも優しすぎるし、失礼ですが対人間戦での戦闘能力はほとんどゼロだとみなしてます。トウカの魔法は本当に凄いけど、制御がからっきしですし」
 昨日、森でトウカに魔法を使ってみてもらったのだが、正面の岩に向けて放たれたはずの水塊は何故か後ろで見ていたハクアと新菜に直撃し、二人ともずぶ濡れになって危うく風邪を引くところだった。

「だからわたしは強くならなきゃいけないんです。家を守るのがメイドの務め!」
 新菜は敷布を畳んで居間の棚に収納し、ハクアの向かいに座った。
 水分補給の代わりに、ミストベリーを摘んで口の中に放り込む。
 夕方にハクアが摘んできてくれた果実は、瑞々しくて美味しい。

「……メイドというのは家庭内労働を行う女性の使用人のことであって、戦闘能力を要求されるものではないと思うが。万が一冒険者や国軍がこの家を包囲することがあっても、おれはニナに戦ってほしいとは思わない。戦うより身の安全を確保し、逃げることを第一に――」
「それじゃダメですよ!」
 テーブルを両手で叩いて身を乗り出す。
「どーせハクア様は自分が犠牲になるからその間にトウカと逃げろとか言うんでしょう! わたしはそんなの絶対に嫌ですからね! メイドと主は一蓮托生なんですっ!!」
「そんな話聞いたことないが……」
 睨みつけると、ハクアは眼光に飲まれたらしく、口を閉ざした。
 おとなしくミストベリーを摘む姿を見て、新菜は鼻から息を吐いた。
 どうもこの竜は自己犠牲の精神が強い。メイドとして、そんなことは絶対に許すわけにはいかない。
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