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27:侯爵夫妻(3)
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「私の本気が伝わったのでしょう。お父様は泣いて止めてくれと私に縋り、早急に婚儀を整えてくださいましたわ。それ以降は一切反対の言葉を口にすることなく、とんとん拍子で話が進みました。初めからそうすれば良かったと思ったくらいです」
アマーリエは笑んだまま、頬に手を添えた。
「良いわけないだろう……」
イグニスは顔を片手で覆い、唸るように言って嘆息した。
「……君との婚儀の際、何故皆が大げさなくらいに俺たちを祝福してくれたのかよくわかったよ。異を唱える者は死刑だとでも陛下が言われていたのだろうな。愛娘の脅しがよっぽど効いたんだな……お気の毒に」
「あら、あなたはお父様の肩をお持ちになるのですか? それはつまり、私と結婚したくはなかったと?」
アマーリエが柳眉をひそめた。
「まさか。君以外の女性など考えられないよ。俺が花を捧げ、傍で笑顔を見たいと願う人は、今も昔もただ一人、君だけだ」
イグニスはアマーリエに身体を寄せ、その頬に口づけした。
「……仮面舞踏会の際に揃いの正装をしてくださるなら許しましょう」
つんとした顔で、アマーリエ。
「からかわれるのが目に見えるが……わかった。君の望むままに」
イグニスは降参、とばかりに両手をあげた。
「約束しましたわよ」
固く閉じた蕾が開くように、ようやくアマーリエが笑った。
イグニスも相好を崩す。
「やはり君は笑顔が一番良く似合う。俺は出会った時から君に花を贈り続けてきたが、君の笑顔の前ではどんな花も霞んでしまうな」
「もう。からかわないで」
アマーリエの頬が赤みを帯びる。
「おや、俺は本気で言っているのだが」
「……あなたこそ」
「それはどういう意味かな?」
「あなたの笑顔は私にとって太陽ですわ。失っては生きていけません」
頬を染めたまま、恥ずかしげにアマーリエが言う。
「全く。その顔は反則だろう。君には敵わないな」
もう一度イグニスがアマーリエの頬にキスをした。
(うわー、空気が桃色だわー)
侯爵夫妻は二人の世界へ突入してしまった。
居たたまれず、ちらりと横目で窺えば、ハクアは能面のような無表情。
トウカは両手でティーカップを持ち、マイペースに紅茶を飲んでいる。
二人とも、侯爵夫妻のバカップルぶりにはもう慣れっこらしい。
アマーリエは笑んだまま、頬に手を添えた。
「良いわけないだろう……」
イグニスは顔を片手で覆い、唸るように言って嘆息した。
「……君との婚儀の際、何故皆が大げさなくらいに俺たちを祝福してくれたのかよくわかったよ。異を唱える者は死刑だとでも陛下が言われていたのだろうな。愛娘の脅しがよっぽど効いたんだな……お気の毒に」
「あら、あなたはお父様の肩をお持ちになるのですか? それはつまり、私と結婚したくはなかったと?」
アマーリエが柳眉をひそめた。
「まさか。君以外の女性など考えられないよ。俺が花を捧げ、傍で笑顔を見たいと願う人は、今も昔もただ一人、君だけだ」
イグニスはアマーリエに身体を寄せ、その頬に口づけした。
「……仮面舞踏会の際に揃いの正装をしてくださるなら許しましょう」
つんとした顔で、アマーリエ。
「からかわれるのが目に見えるが……わかった。君の望むままに」
イグニスは降参、とばかりに両手をあげた。
「約束しましたわよ」
固く閉じた蕾が開くように、ようやくアマーリエが笑った。
イグニスも相好を崩す。
「やはり君は笑顔が一番良く似合う。俺は出会った時から君に花を贈り続けてきたが、君の笑顔の前ではどんな花も霞んでしまうな」
「もう。からかわないで」
アマーリエの頬が赤みを帯びる。
「おや、俺は本気で言っているのだが」
「……あなたこそ」
「それはどういう意味かな?」
「あなたの笑顔は私にとって太陽ですわ。失っては生きていけません」
頬を染めたまま、恥ずかしげにアマーリエが言う。
「全く。その顔は反則だろう。君には敵わないな」
もう一度イグニスがアマーリエの頬にキスをした。
(うわー、空気が桃色だわー)
侯爵夫妻は二人の世界へ突入してしまった。
居たたまれず、ちらりと横目で窺えば、ハクアは能面のような無表情。
トウカは両手でティーカップを持ち、マイペースに紅茶を飲んでいる。
二人とも、侯爵夫妻のバカップルぶりにはもう慣れっこらしい。
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