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25:侯爵夫妻(1)
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イグニスが確認を終えると、侯爵家の使用人たちは客間に置かれた品々を回収し、一足先に侯爵邸へ帰って行った。
入れ替わりに、トウカが客間へやってきた。
侯爵夫妻はトウカを歓迎した。
愛くるしい幻獣は半ば強制的に二人の間に座らされ、頭を撫でられたり尻尾を触られたりした。
トウカは逃げたりせず、これまであった出来事などを身振り手振りを加えて熱心に報告し、侯爵夫妻は頷いてそれを聞く。
(侯爵家の使用人は信用してないけど、この二人は別なのね)
ハクアが座るソファの斜め後ろに控え、幻獣と人間との微笑ましい対話を見守ること数十分後。
「へえー、それじゃあハクア様がお二人が結婚するきっかけになったんですね」
新菜はハクアとともにソファに座り、侯爵夫妻との歓談に興じていた。
本来なら使用人が主と同席するなど考えられないことだろうが、侯爵夫妻は寛容だった。
ニナも座って話をしようとイグニスのほうから言ってくれたのだ。
「ええ。ハクアが王女と侯爵という身分の差に悩むイグニスの背を押してくれたから、イグニスは私に求婚してくれたのです。侯爵は上級貴族。過去に王女が降嫁した例はありますし、何ら問題はないというのに、私には他に相応しい人がいるとか言い訳して。私はとうの昔に心を決めていましたし、視線や動作で幾度も好意を訴えていましたのに。意気地がないんですから」
アマーリエは唇を尖らせた。
「仕方ないだろう、君にどれだけの縁談があったと思うんだ。国内の名だたる有力貴族に、他国の王子や辺境伯。俺より遥かに財力があり、身分の高い者ばかりだ。躊躇しないほうがおかしい」
「もう。とにかく、私たちは結婚の許しを得るべく、お父様に思いを伝えたのです。するとお父様は言いました。これまで誰にも倒せなかった、国境を荒らす凶悪なワイバーンを討伐することができれば許す、と。無理難題だと思いましたが、イグニスは私の制止を振り切って国境へ向かい、見事に成し遂げたのです」
アマーリエは紅茶の入ったティーカップを手に微笑んだ。
ただティーカップを手に微笑む、それだけで絵になる。
姿勢、所作。どれを取っても彼女は淑女として完璧だ。
客間まで歩いてきたときも、その足運びは実に美しかった。
ほとんど衣擦れの音を立てることのない、滑るような優雅な歩き方。
物語でしか知らなかった本物の王女が目の前にいると、新菜は感心しっぱなしだった。
入れ替わりに、トウカが客間へやってきた。
侯爵夫妻はトウカを歓迎した。
愛くるしい幻獣は半ば強制的に二人の間に座らされ、頭を撫でられたり尻尾を触られたりした。
トウカは逃げたりせず、これまであった出来事などを身振り手振りを加えて熱心に報告し、侯爵夫妻は頷いてそれを聞く。
(侯爵家の使用人は信用してないけど、この二人は別なのね)
ハクアが座るソファの斜め後ろに控え、幻獣と人間との微笑ましい対話を見守ること数十分後。
「へえー、それじゃあハクア様がお二人が結婚するきっかけになったんですね」
新菜はハクアとともにソファに座り、侯爵夫妻との歓談に興じていた。
本来なら使用人が主と同席するなど考えられないことだろうが、侯爵夫妻は寛容だった。
ニナも座って話をしようとイグニスのほうから言ってくれたのだ。
「ええ。ハクアが王女と侯爵という身分の差に悩むイグニスの背を押してくれたから、イグニスは私に求婚してくれたのです。侯爵は上級貴族。過去に王女が降嫁した例はありますし、何ら問題はないというのに、私には他に相応しい人がいるとか言い訳して。私はとうの昔に心を決めていましたし、視線や動作で幾度も好意を訴えていましたのに。意気地がないんですから」
アマーリエは唇を尖らせた。
「仕方ないだろう、君にどれだけの縁談があったと思うんだ。国内の名だたる有力貴族に、他国の王子や辺境伯。俺より遥かに財力があり、身分の高い者ばかりだ。躊躇しないほうがおかしい」
「もう。とにかく、私たちは結婚の許しを得るべく、お父様に思いを伝えたのです。するとお父様は言いました。これまで誰にも倒せなかった、国境を荒らす凶悪なワイバーンを討伐することができれば許す、と。無理難題だと思いましたが、イグニスは私の制止を振り切って国境へ向かい、見事に成し遂げたのです」
アマーリエは紅茶の入ったティーカップを手に微笑んだ。
ただティーカップを手に微笑む、それだけで絵になる。
姿勢、所作。どれを取っても彼女は淑女として完璧だ。
客間まで歩いてきたときも、その足運びは実に美しかった。
ほとんど衣擦れの音を立てることのない、滑るような優雅な歩き方。
物語でしか知らなかった本物の王女が目の前にいると、新菜は感心しっぱなしだった。
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