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23:メイドの助言(3)
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(すっごーい、美男美女だぁ……)
後方の馬車の扉が開き、メイドと男性の使用人が二人ずつ出てきた。
四人は申し合わせたかのような動きで侯爵夫妻の後ろに控えた。
ハクアの隣で緊張しながら立っていると、イグニスはこちらを見て目を見張った。
「お? なんだ、知らない娘《こ》がいるぞ」
イグニスの第一声はそれだった。
貴族らしからぬ、気安い友人に対するような物言いである。高慢なところはどこにもない。
「リエラの招き人だ。森で魔物に襲われているところを助けた。行く当てが見つかるまでメイドとして住まわせることにした」
「まあ、リエラの招き人」
アマーリエは鈴を振るような声音で言い、その白い指で口元を押さえた。
「そいつは凄いな。おとぎ話だとばかり思っていたが、実在するのか。初めて見るぞ」
二人はしげしげと新菜を見つめた。
使用人たちも好奇に満ちた視線を送ってくる。
動物園のパンダにでもなったような気分だなぁ、などという思いはおくびにも出さず、新菜は最上級の笑みを作った。
「初めまして、オルハーレン侯爵、侯爵夫人。ニナと申します」
腹の上で手を重ね、腰を折って一礼する。
主の友人に失礼があってはいけないと、新菜は気を張っていた。
「名を知ってるってことは、俺たちのことはハクアから聞いてるのかな?」
「はい。ある程度、ではありますが」
「こいつ無口だからなあ。言葉を引き出すのも大変だろ」
からからとイグニスが笑う。新菜は曖昧に笑った。
「ところで、ちっちゃいのはどうした? 中か?」
イグニスは辺りを見回した。ちっちゃいの、がトウカの愛称らしい。
「ああ。中で話そう、上がれ」
ハクアは銀色の髪を翻し、丘を上り始めた。
(『上がれ』って……)
爵位制度のあるこの王国で、侯爵といえば公爵に続く上級貴族。
それなのに命令形。そもそも彼にこの家を与えたのはイグニスだ。
(そりゃあ、年功序列でいうならハクアさんが一番上だし、竜に人間が作った爵位制度や礼節を説いたところで意味がないのかもしれないけど、でも命令形はちょっと……)
長い付き合いになる侯爵夫妻は全く気にしていないようだが、侯爵夫妻の後ろに控える年若いメイドの不満を新菜は見逃さなかった。
同じ使用人として、彼女の心情はわかる。相手がたとえ国王であろうと、敬愛する主人に冷たく命令されたら反感を覚えずにはいられない。
明るい人が友人に「上がれよ」と笑って言うなら命令形でもさして気にならないだろうが、ハクアは無愛想で、声にも抑揚がないからどうしても冷たく聞こえてしまう。
後方の馬車の扉が開き、メイドと男性の使用人が二人ずつ出てきた。
四人は申し合わせたかのような動きで侯爵夫妻の後ろに控えた。
ハクアの隣で緊張しながら立っていると、イグニスはこちらを見て目を見張った。
「お? なんだ、知らない娘《こ》がいるぞ」
イグニスの第一声はそれだった。
貴族らしからぬ、気安い友人に対するような物言いである。高慢なところはどこにもない。
「リエラの招き人だ。森で魔物に襲われているところを助けた。行く当てが見つかるまでメイドとして住まわせることにした」
「まあ、リエラの招き人」
アマーリエは鈴を振るような声音で言い、その白い指で口元を押さえた。
「そいつは凄いな。おとぎ話だとばかり思っていたが、実在するのか。初めて見るぞ」
二人はしげしげと新菜を見つめた。
使用人たちも好奇に満ちた視線を送ってくる。
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「初めまして、オルハーレン侯爵、侯爵夫人。ニナと申します」
腹の上で手を重ね、腰を折って一礼する。
主の友人に失礼があってはいけないと、新菜は気を張っていた。
「名を知ってるってことは、俺たちのことはハクアから聞いてるのかな?」
「はい。ある程度、ではありますが」
「こいつ無口だからなあ。言葉を引き出すのも大変だろ」
からからとイグニスが笑う。新菜は曖昧に笑った。
「ところで、ちっちゃいのはどうした? 中か?」
イグニスは辺りを見回した。ちっちゃいの、がトウカの愛称らしい。
「ああ。中で話そう、上がれ」
ハクアは銀色の髪を翻し、丘を上り始めた。
(『上がれ』って……)
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それなのに命令形。そもそも彼にこの家を与えたのはイグニスだ。
(そりゃあ、年功序列でいうならハクアさんが一番上だし、竜に人間が作った爵位制度や礼節を説いたところで意味がないのかもしれないけど、でも命令形はちょっと……)
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同じ使用人として、彼女の心情はわかる。相手がたとえ国王であろうと、敬愛する主人に冷たく命令されたら反感を覚えずにはいられない。
明るい人が友人に「上がれよ」と笑って言うなら命令形でもさして気にならないだろうが、ハクアは無愛想で、声にも抑揚がないからどうしても冷たく聞こえてしまう。
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