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21:メイドの助言(1)

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 新菜がハクアと出会って五日になり、生活にも慣れてきた。

 この家には新菜たちが暮らす母屋の他に菜園と鶏舎、納屋がある。
 納屋は物置としても使われているが、主な用途はハクアが森で取って来たものの保管庫だ。家の備蓄として自ら取ってきたものもあるが、ほとんどは頼まれて採取したものらしい。

 今日はイグニスが来るから、と言ってハクアは昼食が終わるなり納屋へ行き、客間に昆虫の標本や薬草などを運んできた。

「この壺は厳重に密封されてますけど、何が入ってるんですか?」
 薬草の束や球根の詰まった袋などに混ざって置かれたのは、縄で縛られた、一抱えほどもある壺。
 壺の蓋には錐で開けたような小さい穴がいくつかある。
 屈んで耳を近づけると、何やらごそごそと動くような音がした。

「蛇だ」
 瞬間、新菜は脱兎の勢いで逃げ、壁に背を押しつけた。
 蛇が大好きという女子はそういないだろう。新菜も苦手だ。
 心臓がばくばく言っている。

「なんでそんなものを!?」
「この蛇は神秘の森にしか棲息しない希少な種だ。美容や健康に良いとかで、高値で取引されている」
「……何匹入ってるんですか?」
「十匹」
「うわあああ……」
 壺の中を想像して、新菜は身震いした。
 ハクアとともに居間に戻ると、トウカが椅子に腰かけ、テーブルに伏していた。
 狐の耳も尻尾も、覇気なく垂れている。退屈らしい。

「紅茶でも飲む?」
「飲む!」
 トウカは起き上がって言った。
 元気の良い返事に笑い、ハクアの分と共に淹れる。
 ハクアはその紅茶を飲みながら、本を広げた。
 この竜は博識で文字の読み書きができる。
 異世界転生のお約束とでもいうべきか、新菜は会話はできてもこの世界の文字は読めなかった。

 教えてほしいと頼むと、ハクアは嫌な顔一つせず了承してくれた。
 夜になり、新菜の手が空くと「じゃあ昨日の続きから」と講座を開いてくれる。

(面倒見がいいよね、ハクアさんって)
 この五日間、寝食を共にするようになって彼の新たな一面も知るようになった。
 まず彼は朝が弱い。
 起き抜けにぼーっとしている顔は密かに可愛いと思っている。
 照れると不機嫌そうな面持ちになるというのも、この最近で知った。
 あと、ハクアは昼寝も好きだ。
 三日前、近くの村に食料品の買い出しに行った際、新菜はハンモック用の布を買った。

 庭の木にハンモックを設置して以来、そこが彼の昼寝の定位置になった。普段は目にすることのない、子どものように無垢な寝顔を見て密かに笑ったものだ。
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