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19:チューニ病には気をつけよう(1)
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◆ ◆ ◆
居間の壁に備えつけられた姿見の向こうから、少女が見返してきている。
両手で箒を持った掃除中の少女――つまりは自分である。
服装は黒をベースにした膝丈のメイド服。
腰に巻いたエプロンは赤紫色で、腰裏に大きなリボンを結んでいる。
ポニーテイルにまとめた長い黒髪。その上にエプロンと同じ、赤紫色のメイドキャップをつけていた。アクセントの黒のリボンが可愛らしい。
(しっかしこの格好、完全にレニーナだよね)
箒を抱え、腰に手を当てて胸を張る。
この服は四日前、ハクアと買い出しに行った大きな街で新菜が選んだものなのだが、RPGのメイドキャラ『レニーナ』の服を参考にしたせいで、まるっきりコスプレ状態だ。
こうなると『キャラになりきってみたい』という欲が疼く。
新菜はレニーナが出てくるRPGの大ファンで、叔父や叔母にどうしてもと頼み込み、去年の夏には遥々地方から東京のイベントにも参加しに行った。
レニーナの決め台詞や必殺技はもちろん、他キャラとの掛け合いまでも空で言える自信がある。
(完全にコスプレ状態で、レニーナの固定武器の箒まで持ってるわけだし、一回だけなりきっちゃおうかなぁ……一回だけ、一回だけ! いまハクアさんもトウカも外で庭いじりしてるし。絶好のチャンス、活かさなきゃ損よね!)
こほんと咳払いし、鏡の正面に立つ。
右足を後ろに引き、左足を前へ出して、高らかに叫ぶ。
「ご主人様の敵はわたしの敵! みーんなまとめてお掃除します!」
踊るようにステップを踏み、左手の箒を器用に回転させ、次々にポーズを変えていく。
「悪党どもめ、覚悟なさい! バトルメイドニナ、華麗に参上!」
本来はバトルメイド『レニーナ』だが、そこは自分の名前に改変した。
箒を掲げ、ピースした右手を額につけ、ウィンクしながらびしっと決めポーズ。
ちなみにゲームならばここでド派手なエフェクトが入る。
(……ふ……決まった。我ながら惚れ惚れする完成度だったわ)
達成感に浸っていたところで、部屋の扉が開きっぱなしであることに気づいた。
そして、その向こうに二人がいることも。
「……………」
何故彼らがここにいるのだろう。
草刈り用の道具を取りに引き返してきたのか。
はたまた、気が変わって庭いじりを止めたのか。
いや、理由など、もはやどうでも良い。
問題は彼らがここにいて、ばっちり目撃したという現実そのものなのだから。
新菜はポーズを取ったまま石像と化した。
ハクアは鉄壁の無表情。
トウカはとんでもないものを見たかのようにガタガタ震え、ハクアの腕に縋りついた。
居間の壁に備えつけられた姿見の向こうから、少女が見返してきている。
両手で箒を持った掃除中の少女――つまりは自分である。
服装は黒をベースにした膝丈のメイド服。
腰に巻いたエプロンは赤紫色で、腰裏に大きなリボンを結んでいる。
ポニーテイルにまとめた長い黒髪。その上にエプロンと同じ、赤紫色のメイドキャップをつけていた。アクセントの黒のリボンが可愛らしい。
(しっかしこの格好、完全にレニーナだよね)
箒を抱え、腰に手を当てて胸を張る。
この服は四日前、ハクアと買い出しに行った大きな街で新菜が選んだものなのだが、RPGのメイドキャラ『レニーナ』の服を参考にしたせいで、まるっきりコスプレ状態だ。
こうなると『キャラになりきってみたい』という欲が疼く。
新菜はレニーナが出てくるRPGの大ファンで、叔父や叔母にどうしてもと頼み込み、去年の夏には遥々地方から東京のイベントにも参加しに行った。
レニーナの決め台詞や必殺技はもちろん、他キャラとの掛け合いまでも空で言える自信がある。
(完全にコスプレ状態で、レニーナの固定武器の箒まで持ってるわけだし、一回だけなりきっちゃおうかなぁ……一回だけ、一回だけ! いまハクアさんもトウカも外で庭いじりしてるし。絶好のチャンス、活かさなきゃ損よね!)
こほんと咳払いし、鏡の正面に立つ。
右足を後ろに引き、左足を前へ出して、高らかに叫ぶ。
「ご主人様の敵はわたしの敵! みーんなまとめてお掃除します!」
踊るようにステップを踏み、左手の箒を器用に回転させ、次々にポーズを変えていく。
「悪党どもめ、覚悟なさい! バトルメイドニナ、華麗に参上!」
本来はバトルメイド『レニーナ』だが、そこは自分の名前に改変した。
箒を掲げ、ピースした右手を額につけ、ウィンクしながらびしっと決めポーズ。
ちなみにゲームならばここでド派手なエフェクトが入る。
(……ふ……決まった。我ながら惚れ惚れする完成度だったわ)
達成感に浸っていたところで、部屋の扉が開きっぱなしであることに気づいた。
そして、その向こうに二人がいることも。
「……………」
何故彼らがここにいるのだろう。
草刈り用の道具を取りに引き返してきたのか。
はたまた、気が変わって庭いじりを止めたのか。
いや、理由など、もはやどうでも良い。
問題は彼らがここにいて、ばっちり目撃したという現実そのものなのだから。
新菜はポーズを取ったまま石像と化した。
ハクアは鉄壁の無表情。
トウカはとんでもないものを見たかのようにガタガタ震え、ハクアの腕に縋りついた。
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