上 下
14 / 107

14:私はもふもふしたいんです(1)

しおりを挟む
 昼食にと振る舞われたトウカお手製のカレーは、とても複雑な味がした。
 ありていに言えば、まずかった。これが食べ物だとは信じがたいほどに。
(これは……)
 一口食べて、新菜は硬直した。
 悪寒が背筋を突き抜け、頬を嫌な汗が伝う。

 空腹であるが故に大抵のものはおいしく感じられるはずなのだが、おいしいとはお世辞にも言えない。脳も身体も全力で拒否しようとし、鳥肌すら立った。
 具の野菜は大きさがばらばら。
 大きいものは火が通っていないらしく芯が残っている。

 肝心のカレーも、強い香辛料の匂いこそすれ、コクが全くない。
 水で薄く伸ばした粘土を食べているようだ。
 一体何をどうしたらこんな味になるのだろう。
 カレーで失敗するというのはなかなか珍しいことでは……

(バカっ!)
 そこまで考えて、新菜は激しく自分を罵った。
(この世界にレトルト食品なんてないのよ! こんな小さい子が香辛料から何から調合して、頑張って作ってくれたものに文句をつけるなんて人道にもとる行為よ、最低よ! これでまたトウカが人間不信になっちゃったらどうするの! ここは人間代表として、笑顔で完食するのがわたしの使命よ!)

「おいしいね!」
 新菜は努めて笑顔を作った。
 抗おうと震える手を無理矢理に動かし、カレーを掬って口に入れ、咀嚼する。
 ときには強引に水で飲み下しつつ、一連の動作をひたすら繰り返す。

「……無理に食べなくてもいいんだぞ?」
 表面上は笑顔を保ちながらも、どんどん悪くなっていく新菜の顔色を心配したらしく、ハクアが言った。

 ここは屋敷の一室、厨房に隣接した居間。
 長方形の木製テーブルで、ハクアと向かい合っている。
 本来ここはトウカの席なのだろうが、トウカはハクアの隣にちょこんと座っていた。脚の長い、子ども用の椅子に座る姿がなんとも可愛らしい。

「おれもこの味に慣れるまで時間がかかったからな。口に合わないなら素直に残せ。寝込まれるほうが厄介だ」
「寝込んだりなんてしませんよ! 大丈夫です! せっかくトウカくんが作ってくれたんですから、きちんと全部いただきます!」
 トウカも様子が気になるらしく、食べながらちらちらとこちらを見ている。
 心配してくれているのだ。彼を虐待した人間と同じ人間である新菜を。
 トウカもハクアと同等か、あるいはそれ以上に優しい子だ。
(――なら、ここで食べきらなければ平岡新菜の名がすたるってものよ! 見ていて天国のお母さんたち!!)
 新菜は瞳に闘志の炎を燃やし、どうにかこうにか最後まで食べきった。

(やった! 偉いわ新菜。これは間違いなく拍手喝采、スタンディングオベーションものよ! お母さん、見て! あなたの娘はやり遂げたわ……!!)
 偉業を噛み締め、コップの水を一気に煽り、口の中のものを全て胃に流し込む。
 胃がギュルギュルと奇怪な音を立てているが、聞こえないふりをした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

異世界でお取り寄せ生活

マーチ・メイ
ファンタジー
異世界の魔力不足を補うため、年に数人が魔法を貰い渡り人として渡っていく、そんな世界である日、日本で普通に働いていた橋沼桜が選ばれた。 突然のことに驚く桜だったが、魔法を貰えると知りすぐさま快諾。 貰った魔法は、昔食べて美味しかったチョコレートをまた食べたいがためのお取り寄せ魔法。 意気揚々と異世界へ旅立ち、そして桜の異世界生活が始まる。 貰った魔法を満喫しつつ、異世界で知り合った人達と緩く、のんびりと異世界生活を楽しんでいたら、取り寄せ魔法でとんでもないことが起こり……!? そんな感じの話です。  のんびり緩い話が好きな人向け、恋愛要素は皆無です。 ※小説家になろう、カクヨムでも同時掲載しております。

こちらの世界でも図太く生きていきます

柚子ライム
ファンタジー
銀座を歩いていたら異世界に!? 若返って異世界デビュー。 がんばって生きていこうと思います。 のんびり更新になる予定。 気長にお付き合いいただけると幸いです。 ★加筆修正中★ なろう様にも掲載しています。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!  父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 その他、多数投稿しています! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

異世界で双子の勇者の保護者になりました

ななくさ ゆう
ファンタジー
【ちびっ子育成冒険ファンタジー! 未来の勇者兄妹はとってもかわいい!】 就活生の朱鳥翔斗(ショート)は、幼子をかばってトラックにひかれ半死半生の状態になる。 ショートが蘇生する条件は、異世界で未来の勇者を育てあげること。 異世界に転移し、奴隷商人から未来の勇者兄妹を助け出すショート。 だが、未来の勇者アレルとフロルはまだ5歳の幼児だった!! とってもかわいい双子のちびっ子兄妹を育成しながら、異世界で冒険者として活動を始めるショート。 はたして、彼は無事双子を勇者に育て上げることができるのか!? ちびっ子育成冒険ファンタジー小説開幕!!  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 1話2000~3000文字前後になるように意識して執筆しています(例外あり)  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇ カクヨムとノベリズムにも投稿しています

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。 平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか…… ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

多産を見込まれて嫁いだ辺境伯家でしたが旦那様が閨に来ません。どうしたらいいのでしょう?

あとさん♪
恋愛
「俺の愛は、期待しないでくれ」 結婚式当日の晩、つまり初夜に、旦那様は私にそう言いました。 それはそれは苦渋に満ち満ちたお顔で。そして呆然とする私を残して、部屋を出て行った旦那様は、私が寝た後に私の上に伸し掛かって来まして。 不器用な年上旦那さまと割と飄々とした年下妻のじれじれラブ(を、目指しました) ※序盤、主人公が大切にされていない表現が続きます。ご気分を害された場合、速やかにブラウザバックして下さい。ご自分のメンタルはご自分で守って下さい。 ※小説家になろうにも掲載しております

召喚されたけど要らないと言われたので旅に出ます。探さないでください。

udonlevel2
ファンタジー
修学旅行中に異世界召喚された教師、中園アツシと中園の生徒の姫島カナエと他3名の生徒達。 他の三人には国が欲しがる力があったようだが、中園と姫島のスキルは文字化けして読めなかった。 その為、城を追い出されるように金貨一人50枚を渡され外の世界に放り出されてしまう。 教え子であるカナエを守りながら異世界を生き抜かねばならないが、まずは見た目をこの世界の物に替えて二人は慎重に話し合いをし、冒険者を雇うか、奴隷を買うか悩む。 まずはこの世界を知らねばならないとして、奴隷市場に行き、明日殺処分だった虎獣人のシュウと、妹のナノを購入。 シュウとナノを購入した二人は、国を出て別の国へと移動する事となる。 ★他サイトにも連載中です(カクヨム・なろう・ピクシブ) 中国でコピーされていたので自衛です。 「天安門事件」

処理中です...