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14:私はもふもふしたいんです(1)
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昼食にと振る舞われたトウカお手製のカレーは、とても複雑な味がした。
ありていに言えば、まずかった。これが食べ物だとは信じがたいほどに。
(これは……)
一口食べて、新菜は硬直した。
悪寒が背筋を突き抜け、頬を嫌な汗が伝う。
空腹であるが故に大抵のものはおいしく感じられるはずなのだが、おいしいとはお世辞にも言えない。脳も身体も全力で拒否しようとし、鳥肌すら立った。
具の野菜は大きさがばらばら。
大きいものは火が通っていないらしく芯が残っている。
肝心のカレーも、強い香辛料の匂いこそすれ、コクが全くない。
水で薄く伸ばした粘土を食べているようだ。
一体何をどうしたらこんな味になるのだろう。
カレーで失敗するというのはなかなか珍しいことでは……
(バカっ!)
そこまで考えて、新菜は激しく自分を罵った。
(この世界にレトルト食品なんてないのよ! こんな小さい子が香辛料から何から調合して、頑張って作ってくれたものに文句をつけるなんて人道にもとる行為よ、最低よ! これでまたトウカが人間不信になっちゃったらどうするの! ここは人間代表として、笑顔で完食するのがわたしの使命よ!)
「おいしいね!」
新菜は努めて笑顔を作った。
抗おうと震える手を無理矢理に動かし、カレーを掬って口に入れ、咀嚼する。
ときには強引に水で飲み下しつつ、一連の動作をひたすら繰り返す。
「……無理に食べなくてもいいんだぞ?」
表面上は笑顔を保ちながらも、どんどん悪くなっていく新菜の顔色を心配したらしく、ハクアが言った。
ここは屋敷の一室、厨房に隣接した居間。
長方形の木製テーブルで、ハクアと向かい合っている。
本来ここはトウカの席なのだろうが、トウカはハクアの隣にちょこんと座っていた。脚の長い、子ども用の椅子に座る姿がなんとも可愛らしい。
「おれもこの味に慣れるまで時間がかかったからな。口に合わないなら素直に残せ。寝込まれるほうが厄介だ」
「寝込んだりなんてしませんよ! 大丈夫です! せっかくトウカくんが作ってくれたんですから、きちんと全部いただきます!」
トウカも様子が気になるらしく、食べながらちらちらとこちらを見ている。
心配してくれているのだ。彼を虐待した人間と同じ人間である新菜を。
トウカもハクアと同等か、あるいはそれ以上に優しい子だ。
(――なら、ここで食べきらなければ平岡新菜の名がすたるってものよ! 見ていて天国のお母さんたち!!)
新菜は瞳に闘志の炎を燃やし、どうにかこうにか最後まで食べきった。
(やった! 偉いわ新菜。これは間違いなく拍手喝采、スタンディングオベーションものよ! お母さん、見て! あなたの娘はやり遂げたわ……!!)
偉業を噛み締め、コップの水を一気に煽り、口の中のものを全て胃に流し込む。
胃がギュルギュルと奇怪な音を立てているが、聞こえないふりをした。
ありていに言えば、まずかった。これが食べ物だとは信じがたいほどに。
(これは……)
一口食べて、新菜は硬直した。
悪寒が背筋を突き抜け、頬を嫌な汗が伝う。
空腹であるが故に大抵のものはおいしく感じられるはずなのだが、おいしいとはお世辞にも言えない。脳も身体も全力で拒否しようとし、鳥肌すら立った。
具の野菜は大きさがばらばら。
大きいものは火が通っていないらしく芯が残っている。
肝心のカレーも、強い香辛料の匂いこそすれ、コクが全くない。
水で薄く伸ばした粘土を食べているようだ。
一体何をどうしたらこんな味になるのだろう。
カレーで失敗するというのはなかなか珍しいことでは……
(バカっ!)
そこまで考えて、新菜は激しく自分を罵った。
(この世界にレトルト食品なんてないのよ! こんな小さい子が香辛料から何から調合して、頑張って作ってくれたものに文句をつけるなんて人道にもとる行為よ、最低よ! これでまたトウカが人間不信になっちゃったらどうするの! ここは人間代表として、笑顔で完食するのがわたしの使命よ!)
「おいしいね!」
新菜は努めて笑顔を作った。
抗おうと震える手を無理矢理に動かし、カレーを掬って口に入れ、咀嚼する。
ときには強引に水で飲み下しつつ、一連の動作をひたすら繰り返す。
「……無理に食べなくてもいいんだぞ?」
表面上は笑顔を保ちながらも、どんどん悪くなっていく新菜の顔色を心配したらしく、ハクアが言った。
ここは屋敷の一室、厨房に隣接した居間。
長方形の木製テーブルで、ハクアと向かい合っている。
本来ここはトウカの席なのだろうが、トウカはハクアの隣にちょこんと座っていた。脚の長い、子ども用の椅子に座る姿がなんとも可愛らしい。
「おれもこの味に慣れるまで時間がかかったからな。口に合わないなら素直に残せ。寝込まれるほうが厄介だ」
「寝込んだりなんてしませんよ! 大丈夫です! せっかくトウカくんが作ってくれたんですから、きちんと全部いただきます!」
トウカも様子が気になるらしく、食べながらちらちらとこちらを見ている。
心配してくれているのだ。彼を虐待した人間と同じ人間である新菜を。
トウカもハクアと同等か、あるいはそれ以上に優しい子だ。
(――なら、ここで食べきらなければ平岡新菜の名がすたるってものよ! 見ていて天国のお母さんたち!!)
新菜は瞳に闘志の炎を燃やし、どうにかこうにか最後まで食べきった。
(やった! 偉いわ新菜。これは間違いなく拍手喝采、スタンディングオベーションものよ! お母さん、見て! あなたの娘はやり遂げたわ……!!)
偉業を噛み締め、コップの水を一気に煽り、口の中のものを全て胃に流し込む。
胃がギュルギュルと奇怪な音を立てているが、聞こえないふりをした。
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