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「この世界に冒険者ギルドはありますか?」
「あるが、冒険者を目指すのか? あの程度の魔物に殺されそうになっていたのに?」
 ハクアは不安げな顔をした。
「あの程度って……もしかしてあれ、雑魚なんですか?」
「ああ。一撃で倒せるくらいの力量がなければ止めたほうがいい。まず間違いなく死ぬぞ」
「はい、わかりました。わたしに冒険者は向いてませんね!」
 新菜は爽やかな笑顔で言って、冒険者という選択肢を脳内の架空のゴミ箱に叩き込んだ。
 しかし、改めて考えてみると、自分に何ができるのだろう。

 趣味はゲーム。この世界では役に立ちそうにない。
 特技は嘘泣き。世渡りの有効手段にはなっても、金にはならないだろう。
(得意なこと……うーん……あ、家事ならやれるぞ!)
 ピコーンと閃き、新菜は手を打った。

 新菜は小学生の頃に両親と弟を事故で亡くし、叔父の家に引き取られてからというもの、家事の一切を押しつけられてきた。
 特に料理の腕は研究を重ねてきたおかげで――なにしろまずいと文句を言われるのだ――かなりのものだと自負している。
 この世界は現代日本ほどインフラが整備されていないだろうが、川での水汲みでも洗濯板を使っての洗濯でも、生きるためならばなんでもやろう。覚悟は決めた。

(よし、それじゃ住み込みで雇ってくれそうな人を探そう! 得体の知れない異世界人を受け入れる物好き――もとい、度量の広い素敵な人なんてそうそういないだろうし、頑張って探さないと……ん?)
 ハクアは無表情でこちらを見ている。
(……もしかしてわざわざ探さなくても良いんじゃない?)
 ハクアを見つめて、新菜の目が怪しく光った。

「ところで、ハクアさんはどこで暮らしてるんですか? やっぱり竜らしく、森の中で巣を作ってるとか?」
 内心の企みを悟られぬよう、努めて平静に探りを入れる。
「いや。竜の姿だと人間に追いかけ回されるから、この森の近くで人になりすまして暮らしてる」
「……一人暮らしですか?」
 新菜の目がさらに強く輝く。
 獲物に狙いを定めた肉食獣の目の輝きだ。

「幻獣の子が一人……どうしてそんなことを聞くんだ? 目が怖いんだが。まさか」
「そのまさかです」
 新菜は真顔で肯定し、一歩詰め寄った。
 ハクアがわずかに頬をひきつらせる。
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