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 透明な液体が乾ききった喉を潤し、臓腑に滲み渡る。
(あー。滲《し》みるわぁー)
 新菜は小川のほとりで恍惚の表情を浮かべていた。
 まるっきり風呂上がりの一杯を噛み締める叔父そのものの姿だったのだが、本人はそれに気づかない。

 現在、新菜の左手には大きなビール缶――もとい、ただの水があった。
 足元の小川からすくった水である。

 ほんの数分前、ハクアは森の中を流れるこの小川に案内してくれた。
 周囲には白い花が咲き乱れ、苔むした岩や老木が転がっている。
 高く鳴くのは枝の上の小鳥。
 青空から降り注ぐ光を反射して、水面が宝石のようにキラキラ輝く。
 神秘的までに美しい小川の風景は、歩き疲れていた新菜の目にこの世の楽園と映った。

「はー……」
 生き返ったような心地で息を吐く。
 森の水場は涼しく、川のせせらぎは心を落ち着かせた。

 ふと水面に映る自分の姿を見る。
 乱れた髪、ほつれたセーラー服、頬に走る赤い筋――どうやら枝葉でひっかけたらしい。

 見下ろせば、手足には細かな傷がいくつもある。
 一番酷いのは右足、膝の下に走る裂傷だ。血が一筋垂れている。
 茂みに突っ込んだときにできたものだろう。痛いなと思ったのだ。

 横を向くと、ハクアは少し離れた岩場に座っていた。
 立てた片膝に腕をかけ、銀髪を微風にそよがせながら、水面を見ている。

 慣れない森の中を歩き回り、疲労の色が濃い新菜に比べ、ハクアは全く平気そうだ。息一つ乱していない。
 新菜のために休憩時間を設けてくれたのだろう。

(何も言わなくてもここに案内してくれたし、本当に優しい竜なんだな……お礼したいけど、いま何も持ってないし……いや、待てよ?)
 新菜はポケットから飴を取り出し、ハクアの前に立った。

「これ、助けてもらったお礼……に、なればいいんですが。飴はお嫌いですか?」
「飴……?」
 自分の知っている飴と違う。ハクアはそんな表情をしていた。
(毒入りとでも思われたら一大事だわ)
 新菜は急いで包装紙を破り、赤いイチゴ味の飴を口の中へ入れてみせた。

「手を出してもらえませんか?」
「…………」
 仕方なく、といった様子で、ハクアが手を差し出した。
 人間と変わらないその手に、緑色の飴を乗せる。
 ハクアは飴を摘み、口の中に入れた。
 おいしいのかまずいのか、無表情からは窺い知れない。
「おいしいですか?」
「……まあまあ」
「そうですか。まずくなかったなら良かったです」
 微笑んで、手に残った包装紙をポケットへ突っ込む。
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