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06:速やかなフラグ回収(4)

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「わたし、竜大好きなんです! でもわたしの世界では本やゲームの中にしか存在しないものだったから、こうして会えるなんて夢みたい! それも、あなたみたいに綺麗な竜に!」
 新菜の反応が予想外だったらしく、彼は目をぱちくりさせた。
「……綺麗だなんて、どうしてわかる?」
「わかりますよ! 人型でもこんなに綺麗じゃないですか! 完全に竜になったときなんてもう、それはそれは綺麗に決まってるじゃないですか!」
 己の語彙力のなさを悔やみながら力説する。
「陽を浴びて輝く白銀の鱗、青空を悠々と羽ばたく姿――ああ、想像するだけでときめきます……!」
 手を組んでうっとりしていると。
「……綺麗かどうかは知らないが」
 彼は困ったように目を逸らした。

「竜は人間に狙われるんだ。爪や牙や鱗は、武器や防具に。血液や内臓は薬に。余った肉は食用になるからな。一頭狩るだけでひと財産になる」
「ああ、なるほど……」
「人間は本当にしつこい。見つけたら地の果てまで追いかけてくる。あいつらのせいで、もう何度棲み処を変えてきたことか……襲われて死にかけた回数も、一度や二度じゃ済まない」
「大変だったんですね……」
 憮然とした表情で語る彼に、新菜はそう言うことしかできなかった。

 新菜もゲームでは張り切って竜退治をしていたが、もしも竜が実在したとして、彼らの立場になって考えるとたまったものではないだろう。
 何もしてないのにある日いきなり襲撃されるのだから。
 
「ただでさえ竜は狙われるが、おれはさらに人間が欲しがるものを持ってる」
 彼は長い人差し指で自身の目を指した。

「この目だ。一部の銀竜しか持たない、稀少な虹色の瞳。これを売れば人間が一生遊んで暮らしても、まだ余るほどの大金になる」
「そうなんですか……でも、これまで大変な目に遭ってきたのに、よくわたしを助けてくれましたね?」
 心底不思議に思って尋ねる。
 彼にとって人間は憎むべき敵であるはずだ。
 新菜が逆の立場だったら、とっさに助けられるかどうか。自信がない。

「……まあ、人間にも良い奴はいるって知ってるからな」
 彼は言い訳するように言った。

「優しいんですね」
 身体の前で手を組み、微笑む。

「……ただの気まぐれだって言っただろう」
 彼は美しい銀色の髪をふわりと翻した。

「あ、待ってください。あなたに置いて行かれたら死ぬしかないんです! お願いします、見捨てないで!」
 新菜は慌てて彼の後を追った。
 見知らぬ人間の生死など知ったことかと突き放されたらどうしようと思ったのだが、彼はただ一言、ぶっきらぼうな調子で。
「ハクア」
「え?」
「おれの名だ」
 新菜は目を見開いた。

 名前を教えるということは、つまり少しは心を開いてくれたということだ。
 見捨てずにいてくれるらしい。
「……はい! ハクアさん!」
 新菜は歓喜して、彼の後に続いた。
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