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05:速やかなフラグ回収(3)

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「……あ、あの。ありがとうございました」
 立ち上がってその背中に声をかけると、彼は動きを止めた。
 まくり上げていた袖を下ろし、こちらを振り返る。
 何を考えているのか判然としない、無表情。
 虹色の瞳が新菜を見つめる。
 射貫くような強い瞳だったが、新菜は目を逸らさなかった。

(大丈夫。この人はわたしを助けてくれた。たとえ人間じゃなくても、敵じゃない。疑うのは失礼だ)
 もし彼が敵だとしたら、魔物から助けられた時点で襲われるなり食べられるなりしていたことだろう。

 歩み寄ると、彼は身構えた。
 どうやらかなり警戒心が強い人(?)らしい。
 その警戒心を解くべく、にっこり笑う。

「わたし、平岡新菜っていいます。お名前を聞いてもいいでしょうか?」
「……。……人間に名乗るつもりはない」
 低く透き通った声で、彼はそっけなく言った。

「お前を助けたのだって、ただの気まぐれだ」
 彼は立ち去るそぶりを見せた。

「待ってください!」
 慌てて引き留めると、肩越しに彼が振り向いた。
 明らかに迷惑そうだが、でも、もう一人で森をさまようのは嫌だ。
 また魔物に遭遇すれば、今度こそ命の保証はない。 

「わたし、迷子なんです! 迷子というか、信じられないとは思いますが、気づいたらこの森にいたんです! 出口を知っていたら教えてもらえませんか?」
 まくしたてると、何故か彼は驚いたような顔をした。
 新菜の頭のてっぺんから足のつま先までざっと眺め、「ああ……」と、納得したように言う。
「リエラの招き人か」
「りえらのまねきびと?」
 首を傾げる。

「異世界の人間」
「!!??」
 まさかそのものずばりを言い当てられるとは思わず、新菜は目を剥いた。
「どうしてわかったんですか!?」
「ごくまれにそういう人間が現れる。特にここはパルスラインが走る場所だから、何が起きても不思議じゃない……そうか。リエラの招き人なら、そこまで警戒することはなかったな」
 彼はひとりごちるように呟いた。

「? ええと、何を言っているのかよくわからないんですが、この世界の人はあなたに危害を加えようとしたりするんですか?」
「ああ。いまは人型を取っているが、おれは竜だから」
「あなた、竜だったんですね!?」
 新菜はぱあっと顔を輝かせた。
 変化した右手が竜のようだと思ったが、大当たりだったらしい。
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