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04:速やかなフラグ回収(2)
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「わ、私なんて食べたっておいしくないよ!? 食あたり起こすって! 寝込んじゃうから! いやほんとに!!」
あまりのおぞましさに、涙目で訴える。
頭の中は完全にパニックで、自分でも何を口走っているのかわからない。
四肢を無理矢理に動かすが、拘束が強すぎる。
絡みついた蔓はびくともしない。
「そうだ、あの木の上にいる鳥とかどう!? 鳥ってヘルシーで高タンパク低カロリーでオススメだよ!? 鳥が嫌いなら鹿とか猪とかさ!? 森の奥にいるかもしれないじゃん!? 諦めずに頑張って探そうよ! 絶対私よりおいしいから! なんなら一緒に探すの手伝ってあぎゃ――!!」
魂を込めた必死の訴えは無視された。
身体ごと引っ張られ、景色が滑り、凶器そのものの歯が迫る。
(もうダメ――!!)
新菜は死を覚悟し、強く目を閉じた。
刹那。
鈍い音が連続して耳に届いた。
梱包用の紐をカッターで断ち切ったときのような音。
そして、前方へと引っ張られていた勢いが消失した。
身体の拘束も緩む。
重力に負けて落下した身体を、誰かが抱き留めた。
(……へ)
気が付けば、新菜は誰かの腕の中にいた。俗に言うお姫様抱っこ状態だ。
しかし何か違和感がある。
人間の手にしては、異様に大きくて、皮膚がざらざらしているような――
(へ? なに? 何事!?)
赤面しながら視線を上げれば、端正な顔がすぐそこにあって、心臓が口から飛び出るかと思った。
新菜を抱きかかえ、見下ろしているのは二十歳前後と思しき青年。
野良仕事用なのか、服はシンプルなシャツとズボン。
飾り気のない服装だからこそ、彼の気品と美しさが引き立っている。
月光のように煌く銀髪はひと房だけ伸ばし、綺麗な組み紐でまとめていた。
何より印象的なのは、その瞳。
様々な色が混ざり合い、光の加減で色が違って見える。
――虹色の瞳。
(なんて綺麗な目なんだろう)
思わず見惚れていると、それを嫌うように、青年は新菜を地面に下ろした。
そこで気づく。
彼の左手は至って普通の人間のものだが、肘近くまでまくり上げられたシャツの右袖、その下の形状は人とかけ離れていた。
銀色の鱗に覆われた皮膚に、鋭い爪。
たとえるなら竜の前脚だ。
彼に抱きかかえられたときに覚えた違和感はこのせいだったらしい。
(この人……人間じゃないの!?)
びっくりしている間に、彼は魔物に向き直り、突進していった。
静から動への切り替えがとんでもなく速い。
身体能力が人間を越えている。
疾駆する彼の姿を目が追いきれなかった。
彼は魔物の前まで移動し、その右手の鋭い爪で魔物を斬りつけた、らしい。
あまりにも速くて何がどうなったのかよくわからない。
新菜の目に映ったのは、緑色の血を噴き出しながら倒れる魔物の姿。
軽い地響きを立てて仰向けに倒れ、やがて魔物は動かなくなった。
青年の異形の右手が人間のそれになる。まるで手品だ。
彼は調子を確かめるように、右手を軽く開いたり閉じたりしている。
あまりのおぞましさに、涙目で訴える。
頭の中は完全にパニックで、自分でも何を口走っているのかわからない。
四肢を無理矢理に動かすが、拘束が強すぎる。
絡みついた蔓はびくともしない。
「そうだ、あの木の上にいる鳥とかどう!? 鳥ってヘルシーで高タンパク低カロリーでオススメだよ!? 鳥が嫌いなら鹿とか猪とかさ!? 森の奥にいるかもしれないじゃん!? 諦めずに頑張って探そうよ! 絶対私よりおいしいから! なんなら一緒に探すの手伝ってあぎゃ――!!」
魂を込めた必死の訴えは無視された。
身体ごと引っ張られ、景色が滑り、凶器そのものの歯が迫る。
(もうダメ――!!)
新菜は死を覚悟し、強く目を閉じた。
刹那。
鈍い音が連続して耳に届いた。
梱包用の紐をカッターで断ち切ったときのような音。
そして、前方へと引っ張られていた勢いが消失した。
身体の拘束も緩む。
重力に負けて落下した身体を、誰かが抱き留めた。
(……へ)
気が付けば、新菜は誰かの腕の中にいた。俗に言うお姫様抱っこ状態だ。
しかし何か違和感がある。
人間の手にしては、異様に大きくて、皮膚がざらざらしているような――
(へ? なに? 何事!?)
赤面しながら視線を上げれば、端正な顔がすぐそこにあって、心臓が口から飛び出るかと思った。
新菜を抱きかかえ、見下ろしているのは二十歳前後と思しき青年。
野良仕事用なのか、服はシンプルなシャツとズボン。
飾り気のない服装だからこそ、彼の気品と美しさが引き立っている。
月光のように煌く銀髪はひと房だけ伸ばし、綺麗な組み紐でまとめていた。
何より印象的なのは、その瞳。
様々な色が混ざり合い、光の加減で色が違って見える。
――虹色の瞳。
(なんて綺麗な目なんだろう)
思わず見惚れていると、それを嫌うように、青年は新菜を地面に下ろした。
そこで気づく。
彼の左手は至って普通の人間のものだが、肘近くまでまくり上げられたシャツの右袖、その下の形状は人とかけ離れていた。
銀色の鱗に覆われた皮膚に、鋭い爪。
たとえるなら竜の前脚だ。
彼に抱きかかえられたときに覚えた違和感はこのせいだったらしい。
(この人……人間じゃないの!?)
びっくりしている間に、彼は魔物に向き直り、突進していった。
静から動への切り替えがとんでもなく速い。
身体能力が人間を越えている。
疾駆する彼の姿を目が追いきれなかった。
彼は魔物の前まで移動し、その右手の鋭い爪で魔物を斬りつけた、らしい。
あまりにも速くて何がどうなったのかよくわからない。
新菜の目に映ったのは、緑色の血を噴き出しながら倒れる魔物の姿。
軽い地響きを立てて仰向けに倒れ、やがて魔物は動かなくなった。
青年の異形の右手が人間のそれになる。まるで手品だ。
彼は調子を確かめるように、右手を軽く開いたり閉じたりしている。
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