上 下
71 / 94

71:困り事なら私まで(4)

しおりを挟む
 今日は着物で働いていると汗を掻くほどの陽気だというのに、彼女は『一年三組』と書かれた緑色のクラスTシャツの上に薄手のカーディガンを羽織っていた。

 紺色のカーディガンはかなり大きめで、彼女の手は半分ほど隠れ、指先しか見えない状態だ。

 彼女は可哀想なくらいに背中を丸め、この世の終わりみたいな顔をして足元に視線を漂わせている。

 左右にふらふらと頭を振りながら、落とした何かを懸命に探しているようだった。

(さて。面識のない一年生に上級生が声をかけるべきか、無視して通り過ぎるべきか)

 四階の教室では秀司が、楽しいデートが待っている――

 迷ったのはほんの一秒のことで、沙良は問題の女子生徒に歩み寄った。

「ねえ、そこのあなた。どうしたの?」
「え……」
 急に声をかけられたことに驚いたらしく、廊下に積み上げられていた机の下を屈んで見ていた彼女はびくっと肩を震わせてこちらを見上げた。

 ぱっちりした大きな二重の目が特徴の可愛い女子だった。

「初めまして。いきなり、しかもこんな格好でごめんね。怪しい人間じゃないから安心してね」
 片手で頭の狐耳を触ってから、その手を軽く振ってみせる。

「二年一組の花守っていいます。一応聞くけど一年生、だよね?」
「はい、一年です……三組の小林っていいます」
 怯えたような眼差しで彼女はそう名乗り、おっかなびっくり立ち上がった。
 彼女が立ったことで、小柄な彼女と沙良とは二十センチくらい身長差があることに気づく。

「良かった。先輩だったらタメ口を利いたことをお詫びしなきゃいけなかったから」
 警戒を解くために、沙良は愛想よく笑った。

「さっきから見てたんだけど、どうしたの? 何か落としたの? 困りごとなら手を貸すよ?」
「いえ。なんでもありません。大丈夫――」
「――には見えないから、声をかけたんだけど」
 台詞を先回りして言うと、小林は貝のように口を閉ざしてしまった。

「余計なお世話だったかな? 私の手助けが必要ないならこのままおとなしく自分の教室に戻るけど、どうしよう?」
 選択権を渡してその目を見つめると、小林は葛藤するように眉間に皺を刻み、俯いた。

 そのまま一秒。二秒。三秒――十秒。

「……困ってるなら素直にそう言ってもらえると助かるんだけども?」
 そろそろ待つのに飽きて苦笑すると、彼女は観念したように項垂れた。

「……はい。助けて下さると助かります。全て私が悪いんです……」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

妻がエロくて死にそうです

菅野鵜野
大衆娯楽
うだつの上がらないサラリーマンの士郎。だが、一つだけ自慢がある。 美しい妻、美佐子だ。同じ会社の上司にして、できる女で、日本人離れしたプロポーションを持つ。 こんな素敵な人が自分のようなフツーの男を選んだのには訳がある。 それは…… 限度を知らない性欲モンスターを妻に持つ男の日常

転職してOLになった僕。

大衆娯楽
転職した会社で無理矢理女装させられてる男の子の話しです。 強制女装、恥辱、女性からの責めが好きな方にオススメです!

お嬢様、お仕置の時間です。

moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。 両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。 私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。 私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。 両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。 新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。 私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。 海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。 しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。 海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。 しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。

男子中学生から女子校生になった僕

大衆娯楽
僕はある日突然、母と姉に強制的に女の子として育てられる事になった。 普通に男の子として過ごしていた主人公がJKで過ごした高校3年間のお話し。 強制女装、女性と性行為、男性と性行為、羞恥、屈辱などが好きな方は是非読んでみてください!

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

♡蜜壺に指を滑り込ませて蜜をクチュクチュ♡

x頭金x
大衆娯楽
♡ちょっとHなショートショート♡年末まで毎日5本投稿中!!

体育教師に目を付けられ、理不尽な体罰を受ける女の子

恩知らずなわんこ
現代文学
入学したばかりの女の子が体育の先生から理不尽な体罰をされてしまうお話です。

処理中です...