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67:実は狐に弱いんです(3)

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「あっ、逃げた!」
「待ちなさい! 便乗して逃げようとしないの!!」
 沙良は秀司の腕を引っ張り、強引に留まらせた。

「ほら、座って!」
 テーブルセットした近くの机から適当な椅子を掴んで秀司を座らせ、その頭に狐耳を装着する。

 秀司は始めこそ抵抗するそぶりを見せたものの、沙良の手が頭に触れた時点でおとなしくなった。

「格好良い秀司に可愛い狐耳をつけたらもう無敵よ? 現に私を魅了したじゃない。こうなったら老若男女問わず、教室に来たお客さん全員虜にしましょう」
 言いながらカチューシャの位置を整え、彼の髪を弄る。

「魅了は沙良限定の特殊効果だ。客全員がそんな状態異常に陥って堪るか」
 愚痴るように秀司が言うが、装着作業に夢中の沙良の耳には入っていない。

「はいできた。あー可愛い……ほんと可愛い……えへへへへ……秀司の髪ってふわふわ……狐耳もふわふわ~……」
 沙良はだらしなく頬を緩ませ、陶酔の表情で秀司の頭を撫でた。

「…………」
 意外とまんざらでもないのか、秀司はされるがままにしている。
 なんなら沙良が撫でやすいように少し頭を傾けている始末だった。

「あっそうだ写真!! 写真撮らなきゃ、こうしちゃいられないわっ!!」

「あの子、狐好きなのよね」
 自分のロッカーへと突進していく沙良を見て、赤の矢絣の着物に紺の袴を合わせた瑠夏が呟いた。
 瑠夏は黒猫の耳と尻尾をつけている。

「ああ、なるほど。大好きな秀司と大好きな狐が花守さんの中で奇跡的な調和融合を果たし、見事ドツボにハマったわけだな」

 壁際にいる瑠夏の隣で大和が納得したように頷く。

「今度は立って! 教卓の前でポーズして! 目線こっち向けて! 次はちょっとアンニュイな感じで!」
「アンニュイって何だよ!?」

「はーいみんなー、文化祭実行委員の指示に従って開店準備しましょー。バカップルに付き合ってたらお客さんが来ちゃいまーす」

 パンパン、と山岸が手を叩き、生温かい視線で二人を見守っていたクラスメイトたちの行動を促す。

「はーい」
「使い物にならなくなったクラス委員長の分まで頑張るかー」
「普段は本当にしっかりしてるのにねえ……」
「諦めろ。いまの委員長のIQは2だ」
「まあ、サボテンと一緒なんですね」
 クラスメイトたちは慣れた様子で沙良たちを放置し、各々開店準備に取り掛かった。

「ツーショット撮ってあげようか?」
 一方、撮影に満足したタイミングを見計らって歩美が沙良に近づいた。

「いいえ、私の写真なんて要らないわ。秀司の尊い姿だけ後世に伝えられればそれでいいの」
「後世まで伝えるつもりなの……?」
「くだらないこと言ってないで、隣に立って。ツーショット撮ってもらおう」
「いやいや、本当に私なんて撮らなくていいわよ。データ容量の無駄遣いよ」
「自分の要求は通すのに俺の要求は却下するのか……別れようかな」
「!? わかった、わかったわよごめん!!」
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