上 下
11 / 94

11:委員長、壊れる(3)

しおりを挟む
「は? 何の話?」
「だから、不破くんに彼女がいるって知って、ショックでにいんちょが壊れちゃったの!! 見てよこれ!!」
 歩美は秀司の腕を掴んで引っ張り、いまだに気絶している沙良を指さした。

「ぶっ。酷い顔」
 秀司は沙良の惨状を見るなり噴き出し、口元を片手で覆った。

「笑うなよ!! そんでもってストレートに酷い顔とか言うな!!」
「そうだよ、仮にもにいんちょは女子だよ!? 思ってもそこはオブラートに包もうよ!!」
「お前ほんとひでー奴だな!!」
 歩美を始めとして、沙良に同情的だったメンバーが抗議する。

「いや、まさかここまでショックを受けるとは思わなくて……」
 秀司は肩を震わせている。
 
「喜びに浸ってるところを悪いんだけれど。沙良の親友として確認しておきたいわ」
 歩み寄ると、彼は笑いを収めてこちらを向いた。

「彼女がいるなんて嘘だったのね?」
 じっと秀司を見つめる。

「うん」
 秀司は素直に認めてから、沙良の前に屈んだ。

 まるで姫に忠誠を誓う騎士のように片膝をつき、沙良の肩に手を置いて言う。

「委員長。俺、彼女なんていないよ」

「――――」

 その瞬間、沙良の瞳に光が戻った。

「………………本当に?」
 沙良は縋るような目で問いかけた。

「うん。いない」
 秀司が繰り返すと、沙良は顔を輝かせた。

 けれど、人前ということもあって自制を働かせたらしく、喜びの感情をすぐに消した。

 落ち着いた様子で立ち上がり、スカートの汚れを払う余裕すら見せる。

「………………」
 一言も発することなくクラスメイトたちが見守る中――

「まあ別に? 不破くんに彼女がいようがいまいが関係ないけど?」
 沙良は髪を耳にかけながら、ぷいっと顔を背けた。

(なんて往生際の悪い子なのかしら)
 瑠夏は呆れ、クラスメイトたちは盛大にズッコケた。

「すげええええ!! この期に及んでそんなツンデレ女子みたいなことが言える委員長マジすげえ!! 半端ねえ!!」
「百年の恋も冷めるような醜態を晒しといて……」
「いまさら格好つけても……」
「手遅れっていうか、もはやギャグにしか見えないよね……」
 山岸は何故か感動したように叫び、クラスメイトの女子たちは顔を寄せてボソボソ囁き合っている。

「う、うるさいなあっ! さっきは不破くんに彼女がいるって聞いて、その、なんていうか――ちょっとびっくりしただけよ!」
「ちょっとびっくりしただけで白目剥いて気絶するの!?」
 あまりにも苦しい言い訳には、即座に歩美からのツッコミが入った。

「やばいな、うちの委員長、面白すぎる。入学当時は女子にこれでもかってくらい塩対応だった不破が180度変わった理由がいまわかった」
「これはやられるわー。可愛すぎる」
 小西の隣で茉奈がうんうん頷いている。

「とにかくっ! 不破くんに彼女がいないってことはわかったし、私、次の授業の予習するから!」
「あ、逃げた」

 沙良は早足で自分の席に戻った。
 椅子を引いて座り、机に世界史の教科書やノートを並べる。

「……マジで大事にしろよ? あんなに全身全霊でお前を愛してくれる女なんて他にいねーぞ?」
 教科書を読むふりをしながら顔を真っ赤にしている沙良を見て、山岸が秀司の腕を小突いた。

「知ってる」
 秀司は愉快そうに小さく笑い、自分の席に戻っていった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。

矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。 女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。 取って付けたようなバレンタインネタあり。 カクヨムでも同内容で公開しています。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

夜の公園、誰かが喘いでる

ヘロディア
恋愛
塾の居残りに引っかかった主人公。 しかし、帰り道に近道をしたところ、夜の公園から喘ぎ声が聞こえてきて…

校長先生の話が長い、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
学校によっては、毎週聞かされることになる校長先生の挨拶。 学校で一番多忙なはずのトップの話はなぜこんなにも長いのか。 とあるテレビ番組で関連書籍が取り上げられたが、実はそれが理由ではなかった。 寒々とした体育館で長時間体育座りをさせられるのはなぜ? なぜ女子だけが前列に集められるのか? そこには生徒が知りえることのない深い闇があった。 新年を迎え各地で始業式が始まるこの季節。 あなたの学校でも、実際に起きていることかもしれない。

就職面接の感ドコロ!?

フルーツパフェ
大衆娯楽
今や十年前とは真逆の、売り手市場の就職活動。 学生達は賃金と休暇を貪欲に追い求め、いつ送られてくるかわからない採用辞退メールに怯えながら、それでも優秀な人材を発掘しようとしていた。 その業務ストレスのせいだろうか。 ある面接官は、女子学生達のリクルートスーツに興奮する性癖を備え、仕事のストレスから面接の現場を愉しむことに決めたのだった。

雌犬、女子高生になる

フルーツパフェ
大衆娯楽
最近は犬が人間になるアニメが流行りの様子。 流行に乗って元は犬だった女子高生美少女達の日常を描く

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

High-/-Quality

hime
青春
「…俺は、もう棒高跳びはやりません。」 父の死という悲劇を乗り越え、失われた夢を取り戻すために―。 中学時代に中学生日本記録を樹立した天才少年は、直後の悲劇によってその未来へと蓋をしてしまう。 しかし、高校で新たな仲間たちと出会い、再び棒高跳びの世界へ飛び込む。 ライバルとの熾烈な戦いや、心の葛藤を乗り越え、彼は最高峰の舞台へと駆け上がる。感動と興奮が交錯する、青春の軌跡を描く物語。

処理中です...