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44:内緒のやり取り(4)

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「あたしが不破くんに触る度に嫌そうな顔するくせに。本当に素直じゃないんだから」
「い、嫌そうな顔なんてしてないわよ! 演技指導のためだってちゃんとわかってるもの!」
「なら、あたしはこれからも遠慮なく不破くんに触るけど、いいのね?」
 確認するように瑠夏は沙良の目を見つめた。

「もちろんいいわよ。演技指導のためだもの」
 頷く。と。

「……ふうん?」
 瑠夏は悪だくみを思いついた子どものように怪しく笑い、立ち上がった。

 何をするのかと思えば、瑠夏は秀司の傍に座り、彼の腕にぴとっとくっついた。

「――!! ちょっと!? いまは演技指導の時間じゃないでしょ!? 何くっついてるの!?」
 泡を食って叫ぶ。

「ねえ不破くん、もう一回あたしの頭を撫でてくれる?」
「いいよ」
 秀司はあっさり言って瑠夏の頭を撫でた。

「ああああ!! 一度ならず二度までも!!」

 瑠夏が気持ち良さそうに目を細めるものだから、堪らず沙良は立ち上がった。

「秀司もリクエストされたからってなんで撫でるのよ!? わた、私の時はシュシュを軽く指先で撫でただけだったのに! 私が彼女なのに!! この浮気者!!」
 涙目になって叫ぶ。

「沙良は不破くんに惚れてないんでしょ? ならあたしが引っ付いても良くない? いますぐ破局して良くない?」
 瑠夏は秀司の腕に自分の腕を絡め、さらに密着して首を傾げ、勝ち誇ったように笑った。

(なにその笑顔!? なんで秀司は瑠夏を拒まないのよ!? まんざらでもないってことなの!?)

「良くないぃっ!! いまは私が秀司の彼女なのお!! 瑠夏がライバルになるなんて洒落にならないわよ!! 私に勝ち目なんかないじゃない!!」

「あら、自信がないのね? じゃあ本気で落としちゃおうかしら……」

「嫌ああああああ!!?」

 瑠夏が秀司の頬に手を添え、見せつけるようにことさらゆっくりと顔を近づけたため、沙良は盛大な悲鳴を上げた。

「何する気なのよ秀司に触らないで!! 離れて!! 離れてって言ってるでしょ!?」

 泣きながら沙良は瑠夏を引き剥がし、空いたスペースに自分の身体を割り込ませ、全力で秀司を抱きしめた。

 秀司を力いっぱい抱きしめるなど通常では考えられないことだが、いまは緊急事態だ。
 恥ずかしいだのなんだの言っていられない。

 毛を逆立てた猫のように、ふーふーと荒い息を吐いて沙良は瑠夏を威嚇した。

 瑠夏は秀司に「これでちょっとはお礼になったかしら?」という視線を向け、秀司はこっそり親指を立てた。

 とにかく秀司を守ろうと必死な沙良は二人のやり取りに気づかず、大和だけが肩を震わせていたのだった。
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