上 下
91 / 94

91:ベタ惚れなのはどっちでしょう?(1)

しおりを挟む
 十五分後、沙良たちは多くの生徒が集う食堂の二階で食後のデザートを食べていた。

「うん、美味しい」
 幸せそうな顔で秀司が食べているのは沙良の作ったモンブランケーキだ。

 あのモンブランケーキには市販のマロンペーストではなく茹でた栗を使っていた。

(ひとつひとつ、ちまちま皮を剝いて、茹でて、フードプロセッサーでペーストにして、口金をつけた絞り袋で絞り出して……大変だったなぁ)

 理想の味と形を追求し、試行錯誤した一週間を振り返る。

 作るには一週間かかったが、食べるには五分も要らない。

 それでも、秀司が喜んでくれるのならどんな苦労も帳消しだ。

 この笑顔が見られるのならば、沙良はそれこそなんだってするだろう。

(毎回苦労に見合うほどのお返しをもらってるしね)
 今回秀司がお返しにとくれたのは偶然にも沙良と同じく栗を使ったマロンスイーツだった。

 香ばしい香りが食欲を大いに刺激し、口に入れれば栗の甘さと旨さが広がる贅沢な焼き菓子。

 恐らく自分で買うことは一生ないだろう高級な焼き菓子を噛みしめ、嚥下する。
 氷の浮いた水を飲みながら、沙良は食堂の一階に目を向けた。

 食堂の一階では名前の知らない生徒たちに交じって、瑠夏が歩美たちのグループと談笑している。

 今日は瑠夏のほうから「お昼一緒に食べていいかしら」と歩美たちに声をかけていた。

 その変化がとても嬉しい。

 教室では大和とよく話している姿を見かける。

 沙良としてはこのまま二人がくっつけばいいのに、なんて思っていたりする。

 沙良が言えた義理ではないが、瑠夏も相当面倒くさい女なので、大和のように寛仁大度な人間でなければ受け止め切れないだろう。

「文化祭が終わってもう二週間か。時間経つのは早いな」
 秀司が発言したため、沙良は視線を戻した。
 秀司の前のモンブランケーキは残り三分の一まで減っている。

「そうね。『大衆賞』を受賞できたのは予想外だったわ」
 参加した有志団体の中で人気投票の得票数が最も多かったらしく、沙良たちは金色のメダルを貰った。

「ダンスを頑張ったのは秀司の彼女になりたかったから。そんな不純な動機でメダルを貰っていいのかしらとは思ったけれど」
「動機がどうあれ頑張ったのは事実なんだから、気にしなくていいだろ。メダルはその頑張りを正当に評価された結果だ。ありがたく受け取って、部屋にでも飾っておけばいい」
「もう飾ってるわ」

「俺も。自分の部屋に飾ってる」
 微笑むと、秀司もまた微笑んだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件

森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。 学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。 そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

膀胱を虐められる男の子の話

煬帝
BL
常におしがま膀胱プレイ 男に監禁されアブノーマルなプレイにどんどんハマっていってしまうノーマルゲイの男の子の話 膀胱責め.尿道責め.おしっこ我慢.調教.SM.拘束.お仕置き.主従.首輪.軟禁(監禁含む)

校長先生の話が長い、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
学校によっては、毎週聞かされることになる校長先生の挨拶。 学校で一番多忙なはずのトップの話はなぜこんなにも長いのか。 とあるテレビ番組で関連書籍が取り上げられたが、実はそれが理由ではなかった。 寒々とした体育館で長時間体育座りをさせられるのはなぜ? なぜ女子だけが前列に集められるのか? そこには生徒が知りえることのない深い闇があった。 新年を迎え各地で始業式が始まるこの季節。 あなたの学校でも、実際に起きていることかもしれない。

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。

スタジオ.T
青春
 幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。  そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。    ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。

処理中です...