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21:プレゼントを君に(2)

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「……!!」
 沙良は壊れた黒縁眼鏡の代わりに急遽用意したフレームのない眼鏡の奥にある目を大きくした。

(私以外要らないって――)
 殺し文句に一瞬で顔が熱くなり、心臓が騒ぎ出す。

「沙良は著しく自己評価が低いみたいだけど、俺はありのままの沙良が好きなんだ。もし何か言ってくる奴がいたら『うるせえ黙れ』って言ってやれ。俺はそう言う。それで終わり。それでいいんだって」

 真っ赤になっている沙良を見て自分まで恥ずかしくなったのか、秀司は微かに頬を赤くしてそっぽ向いた。

「……ここまで言えばいい加減理解しただろ」
「……はい」
 頷く。

「周りの目なんてどうでもいいからさ。もっと信じろよ。俺を」
「……はい。すぐには難しいかもしれませんが、努力、します」
 ここまで言われてまだウダウダ言うほど沙良も愚かではない。

 秀司が言いたいことはちゃんと伝わった。――痛いほどに。

(私はもっと自信を持っていいんだ。ううん、持つべきなんだ)

「ああ」
 それで良い、と言わんばかりの笑みを秀司は浮かべた。

 自然に沙良も微笑み返す。

「昨日は行けなくて本当にごめんね。私も楽しみにしてたんだけど――」
「あ、それなんだけど」
 ふと思い出したような調子でそう言って、秀司は立ち上がり、自分の席へと戻っていった。

 机に引っ掛けていた鞄から茶色い袋を取り出し、運んできて沙良の前に置く。 
 それは開封口にリボンが結ばれ、丁寧にラッピングされた袋だった。

「昨日渡そうと思ってたプレゼント。開けてみて……って言いたいけど、片手じゃ大変か。俺が開けるわ」
 秀司は袋のリボンを解いた。

 彼が机の上に広げた中身は金色の縁がついた赤いシュシュだった。
 水色とミント色のシュシュの他に、白やピンクのリボンもある。

「これ……」
 思わぬプレゼントに、沙良は目を瞬いた。

「沙良は髪を結ぶにしてもいつも黒とか紺のゴムで地味だからさ。たまにはこういう髪飾りをつけたとこを見てみたいなと思って」
 照れをごまかすように鼻の頭を掻いて、秀司は言った。

「いまは無理だろうけど。手が治ったらつけてみてよ」
「うん。――うん。ありがとう。大事にするね」
 シュシュを右手に持ち、胸に抱くようにしながら、何度も頷く。

 自分には似合わないと思って地味な格好ばかりしてきたが、これからは周囲の評価など気にせず冒険してみよう。強くそう思った。

「あのー。良かったらお手伝いしますけど?」
 歩美たち三人組が寄ってきた。
 用意周到なことに、その手には鏡や櫛が握られている。

「それとも、不破くんが彼女の髪を弄りたいっていうならお譲りしますが?」
 歩美が櫛を差し出すと、秀司は渋面になって手を振った。
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