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20:プレゼントを君に(1)

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 左腕の肘から手の甲までを覆う白いギプス。
 右頬に貼られた白いガーゼ。
 両手足にあちこち痣を作り、特に左足の向こう脛は酷く変色し、目撃者全員に顔をしかめられた――それが沙良の現状である。

「……大惨事だな」

 翌日の月曜日、朝。
 まだ登校していない沙良の前の男子の椅子を借り、身を反転させて座る秀司は沙良のギプスを見つめて眉をひそめた。

「あはは……」
「いや笑い事じゃないから」
 ぴしゃりと言われて、口をつぐむ。

「手はいつ治るんだ?」
「お医者様の見立てでは全治三週間とのことです。文化祭までには治りますのでご安心ください」
 これ以上彼の機嫌を損ねないよう、沙良ははきはきとした丁寧口調で答えた。

「そう。まあ、階段から落ちてその程度で済んで良かった……と言うべきなんだろうな。落ちないのが一番良かったんだけどな」
 秀司は片手で額を覆っている。

「ご迷惑をお掛けして申し訳ございません」
 猛省を示すために、沙良は畏まって一礼した。

 瑠夏やその他のクラスメイトたちは遠巻きに沙良たちのやり取りを見守っている。
 教室の隅で談笑している歩美たちも会話の合間にこちらを見てきた。
 やはり、わかりやすく負傷している沙良のことは気になるらしい。

「別に迷惑はかけられてないけどさ……」
「いえ、当日、しかも直前のドタキャンは迷惑以外の何物でもありません。せっかくのデートの予定を台無しにしてしまい、誠に申し訳ございませんでした」
「……もういいから顔を上げて」
 伏せていた顔を上げると、秀司はしかめっ面で自分の頭を掻いた。

「ああもう、何なんだよ。遅れるって連絡があったと思ったら、直後に妹さんが電話してきて『姉は階段から落ちていまから病院に行くことになりました』って。なんでまたそんなことになったんだ? 遅刻しそうになって慌てたにしても、慌てすぎだろ。俺ってそんなに怖い? 多少の遅刻くらいで激怒するとでも思ったの? 遅刻するなんてありえない、別れようと言うとでも?」
 本当に付き合っているわけではないのだが、クラスメイトたちの耳目を気にしてか、秀司は『別れる』という表現をした。

「……正直言うと、少し」
 おっかなびっくり頷くと、秀司はため息をついた。

「あのさあ。何か勘違いしてるみたいだけど。俺は沙良以外の女に彼女になってほしいなんて思ってないから」
「え。でも。姫宮さんがいいとか――」
「あれは沙良が素直に引き受けてくれなかったから、発破を掛けただけだって。わかれよそんくらい」
 秀司は苛立ったように言って沙良の口を閉じさせた。

「この際だからハッキリ言っとくけどな、誰が何と言おうと俺はんだよ。彼女役をして欲しいのは沙良だけだ。沙良以外要らない」
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