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28:楽しい宴
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それから六日後に開かれた宴は、星々が空を彩り始めた夜に始まった。
宴の場所はディエン村の中央広場で、宴の主役は二つの村の浄化を成し遂げた私と二人の聖女だ。
ディエン村の住民は心づくしの料理をこれでもかと出してくれた。
もうお腹いっぱいですと遠慮したら、今度はローカス村の住民からデザート攻撃に遭った。
派手に燃え上がる薪を囲んで、二つの村の住民たちは豪快に飲み食いしながら笑っている。
村を挙げての宴には神殿騎士たちも参加していた。
魔物討伐に貢献してくれた第三騎士団の面々は次の任務地に行ったため、ここにはいない。
私は村人や神殿騎士たちと語り合い、心の底から笑った。
私の頭には村の子どもたちが一生懸命編んでくれた、不格好で、これ以上なく素敵な花冠が飾られている。
明るい音楽に合わせて踊る人々に交じって、私も踊った。
色んな人に一緒に踊ろうと誘われたから、踊りすぎて眩暈がしそうになり、最終的に私の手を取ったのはルカ様だった。
傍らで見ていてこれ以上は体力が持たないと判断したのだろう。
ルカ様は酔っぱらいたちのしつこい誘いを半ば強引に振り切って、私を広場の外れへと連れていった。
「ほら。飲め」
色とりどりの花が風にそよぐ花壇の縁に私を座らせて、ルカ様はコップに入った水を差し出してくれた。
「ありがとうございます。んー、冷たくて美味しいー。幸せー」
頬に手を当ててへらへら笑う。
「……見たところコップ一杯しか飲んでなかったのに。酒に弱いんだな」
何やら呆れたような顔をされた。
「いやですね、酔ってませんよお。そういうルカ様は全然飲んでなかったじゃないですか。村の女性たちが代わる代わるお酒を注ぎにやってきたのに、ぜーんぶ断って。どんな美人でもお断りなんて贅沢な! 一体誰のお酒なら満足って言うんですか!」
空になったコップを花壇に置いて、ビシッと人差し指でルカ様を指す。
「お前が注ぐなら飲んでもいいが」
「きゃはははは! なんでですか! 守護聖女だからって、特別扱いしなくて良いですよお!」
笑いながらルカ様の肩を叩く。
頭に回ったアルコールのせいで、自分でも何を言っているのか、何をしているのかあまりよくわかっていない。
「んふふふふふそれにしてもルカ様? 良い夜ですねえ。みんな笑ってます」
とろんとした眼差しで薪を囲う皆の顔を見る。
この村を訪れたときのように、暗い顔をしている人は一人もいない。
子どもも大人も全員笑顔だ。
プリムも拍手につられるように、空中で光の粉をまき散らしながらくるくる踊っている。
あの妖精はいつの間にか村の人気者になっていた。
「家族を失ってしまった人もいるけれど、皆、その悲しみを乗り越えて前に進もうとしています。それがとても嬉しいんです」
「……そうだな」
ルカ様は神妙な面持ちで頷いた。
「嬉しいと言えばですね! 私ぃ、なんとお、五人の男性から求婚されちゃいました! 信じられませんよねえ。エメルナで下民だった私がですよお? 聖女様とか言われて皆からちやほやされてるんです。これもぜーんぶルカ様のおかげですね」
「なんで俺のおかげなんだ?」
「だってえ、ルカ様と巡り会えなければこんな幸福な未来は訪れませんでしたよ。ルカ様には感謝しているんです。本当に」
「……それは光栄だが、それより求婚にはどう返事をしたんだ?」
ルカ様はじっと私を見つめた。
「もちろん全員、丁重にお断りしましたよお。私はルカ様の守護聖女ですからあ。ルカ様のお傍を離れるなんて考えられませんー。無理ですうーって」
身体を横に倒して、ルカ様の肩に自分の頭を乗せる。
「ルカ様は知らないでしょうけれどー、私はここ最近ー、寝ても覚めてもルカ様のことばかり考えてるんですよおー。ルカ様にもう会えませんー、守護聖女を辞めなさいーなんて言われたら悲しくて悲しくて死んじゃいますー。絶対ぜえったいこの指輪は誰にも渡さないんですからーフィーエさんにもリネットさんにも誰にもー! この指輪を狙う聖女たち全員まとめてかかってこーい、です!」
拳を作った左手を天に向かって突き上げる。
宴の場所はディエン村の中央広場で、宴の主役は二つの村の浄化を成し遂げた私と二人の聖女だ。
ディエン村の住民は心づくしの料理をこれでもかと出してくれた。
もうお腹いっぱいですと遠慮したら、今度はローカス村の住民からデザート攻撃に遭った。
派手に燃え上がる薪を囲んで、二つの村の住民たちは豪快に飲み食いしながら笑っている。
村を挙げての宴には神殿騎士たちも参加していた。
魔物討伐に貢献してくれた第三騎士団の面々は次の任務地に行ったため、ここにはいない。
私は村人や神殿騎士たちと語り合い、心の底から笑った。
私の頭には村の子どもたちが一生懸命編んでくれた、不格好で、これ以上なく素敵な花冠が飾られている。
明るい音楽に合わせて踊る人々に交じって、私も踊った。
色んな人に一緒に踊ろうと誘われたから、踊りすぎて眩暈がしそうになり、最終的に私の手を取ったのはルカ様だった。
傍らで見ていてこれ以上は体力が持たないと判断したのだろう。
ルカ様は酔っぱらいたちのしつこい誘いを半ば強引に振り切って、私を広場の外れへと連れていった。
「ほら。飲め」
色とりどりの花が風にそよぐ花壇の縁に私を座らせて、ルカ様はコップに入った水を差し出してくれた。
「ありがとうございます。んー、冷たくて美味しいー。幸せー」
頬に手を当ててへらへら笑う。
「……見たところコップ一杯しか飲んでなかったのに。酒に弱いんだな」
何やら呆れたような顔をされた。
「いやですね、酔ってませんよお。そういうルカ様は全然飲んでなかったじゃないですか。村の女性たちが代わる代わるお酒を注ぎにやってきたのに、ぜーんぶ断って。どんな美人でもお断りなんて贅沢な! 一体誰のお酒なら満足って言うんですか!」
空になったコップを花壇に置いて、ビシッと人差し指でルカ様を指す。
「お前が注ぐなら飲んでもいいが」
「きゃはははは! なんでですか! 守護聖女だからって、特別扱いしなくて良いですよお!」
笑いながらルカ様の肩を叩く。
頭に回ったアルコールのせいで、自分でも何を言っているのか、何をしているのかあまりよくわかっていない。
「んふふふふふそれにしてもルカ様? 良い夜ですねえ。みんな笑ってます」
とろんとした眼差しで薪を囲う皆の顔を見る。
この村を訪れたときのように、暗い顔をしている人は一人もいない。
子どもも大人も全員笑顔だ。
プリムも拍手につられるように、空中で光の粉をまき散らしながらくるくる踊っている。
あの妖精はいつの間にか村の人気者になっていた。
「家族を失ってしまった人もいるけれど、皆、その悲しみを乗り越えて前に進もうとしています。それがとても嬉しいんです」
「……そうだな」
ルカ様は神妙な面持ちで頷いた。
「嬉しいと言えばですね! 私ぃ、なんとお、五人の男性から求婚されちゃいました! 信じられませんよねえ。エメルナで下民だった私がですよお? 聖女様とか言われて皆からちやほやされてるんです。これもぜーんぶルカ様のおかげですね」
「なんで俺のおかげなんだ?」
「だってえ、ルカ様と巡り会えなければこんな幸福な未来は訪れませんでしたよ。ルカ様には感謝しているんです。本当に」
「……それは光栄だが、それより求婚にはどう返事をしたんだ?」
ルカ様はじっと私を見つめた。
「もちろん全員、丁重にお断りしましたよお。私はルカ様の守護聖女ですからあ。ルカ様のお傍を離れるなんて考えられませんー。無理ですうーって」
身体を横に倒して、ルカ様の肩に自分の頭を乗せる。
「ルカ様は知らないでしょうけれどー、私はここ最近ー、寝ても覚めてもルカ様のことばかり考えてるんですよおー。ルカ様にもう会えませんー、守護聖女を辞めなさいーなんて言われたら悲しくて悲しくて死んじゃいますー。絶対ぜえったいこの指輪は誰にも渡さないんですからーフィーエさんにもリネットさんにも誰にもー! この指輪を狙う聖女たち全員まとめてかかってこーい、です!」
拳を作った左手を天に向かって突き上げる。
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