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50:おめでとうをあなたに

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「はいっ。というわけで! ユリウス婚約おめでとー!!」
『おめでとう!!』「おめでとうございます!!」

 夜。
 ずらりと料理が並べられた食卓を囲み、全員が乾杯した。

「……いやそれはいいんだけど、なんであんたが乾杯の音頭を取るのよ?」
 乾杯の音頭を取り終えて隣に座ったジオに、ルーシェは顔を向けた。

「この面子で盛り上げられるのはオレしかいなくねーか?」
「……まあそうね」
 納得して、ルーシェは葡萄酒を飲んだ。
 ルーシェはお酒が苦手なので、二口ほど飲んだ残りは全部ジオに飲んでもらった。

「皆、ありがとう……と言っても、実際に結婚するのは二年後の予定だが」
 上座に座るユリウスはどこか照れくさそうだ。

「十五歳じゃ若すぎるもんなー。法律的には問題ねーけど、ユリウスが少女趣味だと思われちまう」
「でも、エマ様はいますぐでも構わないと仰ったのでは? 覚悟が決まっておられますし」
 セラはふふっと笑った。

「……よくわかったな。その通りだ。だが、やはりエマは若すぎるし、数年経って結婚適齢期を迎える頃には心変わりをするかもしれないからな」
「またそんなことを仰って……」
 セラは顔を曇らせたが、ユリウスは安心させるように微笑んでかぶりを振った。

「だから、俺も努力しようと思う。彼女の心が離れないように」

「…………」
 ルーシェは驚いた。
 恋愛に否定的だったユリウスがこんな発言をするのは初めてだった。

「……変わったな、ユリウス」
 ジオが笑う。それは、思いがけないほど優しい笑顔だった。

「まあな。自分より四つも年下の少女にあれだけまっすぐに好きだと言われたら、負けを認めるしかない」
 ユリウスは苦笑した。
 
「いい加減過去に囚われるのは止めて前を向こうと思う。そう思えるようになったのはエマと、ここにいる皆のおかげだ。ありがとう。いままで心配をかけてしまってすまなかった。でも、もう大丈夫だ」
 そう言ったユリウスの表情は、まるで雨上がりの空のように晴れやかだった。

「……いまのお言葉、ノエル様に聞かせて差し上げたかったです。一番喜ばれたでしょうに……」
 セラはハンカチを目に押し当てた。

「大げさだな。さあ、みんな食べよう。せっかく作ってくれた料理が冷めてしまう」
「はい!」
 ユリウスに促され、セラは笑顔で頷いたが。

「ごめんユーリ、おれは少し席を外す。みんなは気にせず食べててくれ」
 リュオンは立ち上がり、食堂を出て行った。

「?」
 不思議には思ったものの、体調が悪いとかそういうわけではなさそうなので、ルーシェは残された皆と歓談した。

 それから二十分ほど後。

「あれ」
 と、セラとユリウスが喋っている途中で唐突に、ジオが何かに気づいたような声を上げた。

「どうした?」
 セラとユリウスが揃ってジオを見つめる。

「いや。すぐわかるよ」
 ジオは何故か笑っている。

 やがて、開けっ放しの扉からリュオンが戻ってきた。
 深い緑色の軍服を着た銀髪の少年もリュオンに続いて食堂に入ってくる。

「みんな、久しぶり」
 笑顔で片手をあげたノエルを見て、

「ええええ!?」
「ノエル!?」
 ジオを除く全員が驚愕して立ち上がった。

「リュオンが連れてきてくれたのね!?」
「ああ。王都には行ったことがあるからな」
 喜んでいるセラの頭を撫でてリュオンは微笑んだ。

 長距離転移魔法で転移できる場所は『過去に行ったことがある場所』か『予め長距離転移用の魔法陣が描かれている場所』に限られる。
 この場合は前者だったらしい。

「でも、ノエル、仕事は? 今日は休日だったの?」
 ルーシェは困惑して尋ねた。

「いや、一時間だけ休みを貰ってきたんだよ。ぼくの部下は優秀だから、一時間くらいいなくなったって大丈夫。それより兄さん、婚約おめでとう!!」
 ノエルは兄に駆け寄って抱きついた。

「あ、ああ、ありがとう……」
 まだ現実が信じられないらしく、ユリウスは目を白黒させながら弟を抱き返した。

「良かった、本当に良かった。過去はもうどうしようもないけれど、やっと未来に目を向けられるようになったんだね。一時は本当に、どうなることかと……」
「なんだ、泣いてるのかノエル。お前も大げさだな」
「だって……」
 目を擦る弟を見てユリウスは苦笑し、柔らかな声で言った。

「夕食がまだなら一緒に食べないか? 今日はな、ここにいる皆が俺のために料理を作ってくれたんだ――」
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